[本の森 医療・介護]『赤ちゃんをわが子として育てる方を求む』石井光太/『おっぱい先生』泉ゆたか

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赤ちゃんをわが子として育てる方を求む

『赤ちゃんをわが子として育てる方を求む』

著者
石井 光太 [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784093865746
発売日
2020/04/16
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

おっぱい先生

『おっぱい先生』

著者
泉ゆたか [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334913465
発売日
2020/05/21
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

[本の森 医療・介護]『赤ちゃんをわが子として育てる方を求む』石井光太/『おっぱい先生』泉ゆたか

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 厚生労働省が2020年6月に発表した2019年の人口動態統計によると、1人の女性が一生の間に生む子どもの数(合計特殊出生率)は1・36で4年連続の低下、出生数は86万5234人と過去最少であった。少子化問題の根本的な解決策が見つからないまま、子どもは少なくなるばかりだ。

 石井光太『赤ちゃんをわが子として育てる方を求む』(小学館)は、1970年代に実際に起きた「赤ちゃんあっせん事件」を経時的に綴った小説だ。後に「特別養子縁組制度」を勝ち取った産婦人科医、菊田昇の生涯を描く。

 石巻の遊郭の子として生まれた菊田は、同じ屋根の下で暮らす遊女たちの悲惨な生活をつぶさに見て医師を志した。

 東北大学医学部に進み産婦人科医となった菊田が見た現実は、望まぬ妊娠を隠したまま出産せざるを得なくなる女性たちと、当時は許されていた妊娠8か月での中絶だった。早産で生まれた子は生きる力がある。その命を奪うことが産婦人科医の仕事でもあった。

 片や、どうしても子どもができず、養子がほしいという人々も存在する。ここに立ちはだかるのは戸籍の問題だ。それをクリアするために、菊田が取った方法は何だったのか。後に国連から「世界生命賞」を授与されるほどの偉業も、最初は他の産婦人科医から疎まれ排斥された。

「特別養子縁組」の成立要件である養子となる者の年齢が、6歳未満から15歳未満までに今年四月から引き上げられ、煩雑だった家庭裁判所の手続も合理化された。これまで制度の対象外だった、6歳以上15歳未満の虐待等で児童養護施設に入っている児童、里親に引き取られた児童にも適用される。「子供を救いたい」一心で行った菊田の思いが、さらに一歩前進した。

 泉ゆたか『おっぱい先生』(光文社)は「母乳外来」専門の助産院が舞台だ。

 出産後、順調に母乳が出て、赤ちゃんも上手におっぱいを飲むことは当たり前ではない。悩み、傷つき、苦しむ母親に寄り添い、「おっぱい先生」と頼られる凄腕の助産師の名は寄本律子という。白髪でクールな美人だ。ゆったりとおっぱいをマッサージしながら、母親たちの苦しみを溶かす。

 おっぱいを飲んでくれない息子、突然母乳が出なくなるアクシデント、激烈なおっぱいの痛みの理由、そして断乳の時期。

 助産師は看護師の資格をもつ女性だけが取れる資格である。出産後の心と体のケアを、こんなおっぱい先生にしてもらえたらどんなに幸せだろう。

 生きることができなかった子にも、ちゃんと愛情を伝えるおっぱい先生の物語は、希望がパンパンに詰まっている。

新潮社 小説新潮
2020年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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