アリに魅せられて命がけのデータ収集

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アリ語で寝言を言いました

『アリ語で寝言を言いました』

著者
村上 貴弘 [著]
出版社
扶桑社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784594085469
発売日
2020/07/02
価格
990円(税込)

書籍情報:openBD

アリに魅せられて命がけのデータ収集

[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)

 地球上で最も繁栄し、最も興味深い生物は何か。その答えは、脊椎動物では人類、無脊椎動物ではアリでまず間違いない。何しろ世界のアリの総重量は、哺乳類全ての重量に匹敵するというから、繁栄度において人類ごときはアリの敵ではないのである。

 生態の興味深さにおいても、アリは生物界で群を抜く存在だ。たとえばハキリアリは、噛み砕いた木の葉を肥料として栽培したキノコを食べる「農業アリ」だ。彼らの社会は、運搬の護衛、巣の掃除、育児担当など高度な分業が進んでおり、「都市」と呼びたくなるほどのものだ。他にも、大きな頭で巣の入り口をふさぐだけで一生を終えるヒラズオオアリ、他のアリの巣に乗り込んで女王を殺し、コロニーを乗っ取るサムライアリなど、驚くべき生態のアリは枚挙に暇(いとま)がない。

 本書『アリ語で寝言を言いました』は、そんなアリの世界に魅せられて世界を駆け巡る研究者・村上貴弘の書き下ろしで、これが面白くならないわけがない。パナマのジャングルでグンタイアリに襲われ、ワニと鉢合わせしながら、命がけでデータを集める日々。実験室にこもってピペットを握るばかりの研究者とは、一味も二味も違う世界だ。

 異なる社会を経験すれば、自らの属する社会も違って見えてくる。アリの社会もまた、人間の社会を考える上で大いに参考になってくれるはずだ。本書をお読みの上、しばし庭のアリの巣など眺めてみてはいかがだろうか。

新潮社 週刊新潮
2020年9月24日秋風月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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