『はぐれ又兵衛例繰控【二】鯖断ち』
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これぞ時代小説の王道を行く面白さ! 地味な例繰方与力が友の窮地を救うため飛翔の刀が鞘走る!
[レビュアー] 田口幹人(書店人)
坂岡真の渾身の新シリーズ、早くも第二弾! 書評家の田口幹人が作品の魅力を解説する。
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いきなり余談になるが、テレビを観る習慣がない僕は、時間があるといつも何らかの書き下ろし時代小説を読んでいる。読みやすさ抜群の書き下ろし時代活劇は、日常から僕を解き放してくれるすごく大切な友達なのだ。しかし、書き下ろし時代小説には欠点がある。テレビの連続ドラマと違い、毎週毎週続きを読むことができないのだ。仕方ないのは分かっているが、数か月待たねばならないというもどかしさよ。お目当てのシリーズの新刊の発売日は常にチェックし、その日に買い求めに本屋に立ち寄る日々を続けている。
周囲から「はぐれ」と呼ばれる変わり者で、南町奉行所例繰方与力の平手又兵衛を主人公とした、坂岡真さんの待望の新シリーズ『はぐれ又兵衛例繰控【一】 駆込み女』は、洒落、謎解き、恋情と、バラエティに富んだ中編三編が収録されており、しっかりとした読み応えのある作品だった。鬱陶しいほど細かい性格に加え、あえて集団や社会との関わりを拒むはぐれの又兵衛が、妻を娶りどのような変化を遂げるのか、続きが気になっていた。ああ、続編を読めるのは数か月後になるのか、と思っていたのだが、さすがあの『鬼役』で伝説の七か月連続刊行という偉業を成し遂げた坂岡真さん。読者を待たせることをせず、なんと二か月連続刊行。嬉しい。読んでから間がなかったこともあり、冒頭から物語の世界に入り込めた。
二巻目となる『鯖断ち』も、一巻目の『駆込み女』と同様に読み応えのある中編が三編収録されていた。
上司に押し付けられ御赦免船の出迎えの立ち会いを命じられた又兵衛が、出迎える縁者もいない居職の庄吉を見かける。父親が大切にしていた黒い井戸茶碗の繋いだ縁が、十四年間止まっていた時を動かし、相棒の幼馴染みの長元坊とともに事件の真相に迫る「赦免船」。
歌詠みの会へ連れていかれたことが発端となり、歌を通じて親しくなった男の仇討ちの見届け役を頼まれた又兵衛が見た侍の意地と、二十年という長い年月、辛酸を嘗めながらも生き抜いてきた者たちの結末を描いた「櫛侍の本懐」。
又兵衛の唯一の理解者であり、相棒の長元坊が金貸し婆殺しの罪を背負わされる。友を信じる気持ちが、己の保身と私腹を肥やすことしか考えない不浄役人を追い詰める「鯖断ち」。
いずれも、正直者が莫迦をみる理不尽な世の中に対する又兵衛の誠実さが気持ちよく、妻・静香との暮らしを通じた又兵衛の感情の機微が絶妙にリンクしていることで、又兵衛の人間味を感じることができた。
早く続きが読みたい。ああ、今度こそ数か月待たねばならないのか。待ち遠しい。