【『オルタネート』刊行記念特別対談】福田里香×加藤シゲアキ/どんなときも「食べる」―フード描写をめぐって―

対談・鼎談

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オルタネート

『オルタネート』

著者
加藤 シゲアキ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103537311
発売日
2020/11/19
価格
1,815円(税込)

書籍情報:openBD

【『オルタネート』刊行記念特別対談】福田里香×加藤シゲアキ/どんなときも「食べる」―フード描写をめぐって―

[文] 新潮社

「フード理論」の提唱者である菓子研究家の福田里香と、福田をして「フード作家」と言わしめた加藤シゲアキ。悲しい時でも人が食べるのはなぜ? フィクションに於けるフード描写の在り方とは? お互いに著作とラジオを通じて十年来のファンだった二人の、フードを巡る縦横無尽なダイアローグ。

ラジオ「タマフル」を通じて

加藤 初めまして。僕は大学生のころから「タマフル」(TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」)のリスナーでして、十年くらい前だったかな、福田さんが出演されたとき、「フード理論」のお話をされていたんですね。もう、その「フード理論」がまさに目からうろこで、とても興味深く聞いていました。『ゴロツキはいつも食卓を襲う』(太田出版)が出たときも夢中になって読みました。あれから時を経て『オルタネート』を執筆しましたが、少なからず影響を受けていると思います。

福田 それは光栄です。私ももともとリスナーだったんですよ。だから出演できて嬉しかったです。とはいえ人前で喋った経験なんてほとんどない、ただの素人だったので、今考えると無謀というかなんというか(笑)。

加藤 対談の機会をいただけたので、最近『ゴロツキはいつも食卓を襲う』を読み直したんですが、改めて読んで、これ怖い本だなと思いました。「スプーンをかき混ぜすぎるひとは、心に悩みを抱えている」とか「逃走劇は厨房を駆け抜ける」とか、記号的な料理の使い方をしている作品の、ある種ピックアップですよね。福田さんは淡々と書いていらっしゃいますが、書き手からしたら「これはもうパターン化されてるからね」「こういう表現からはこんな予定調和が生まれるよ」って教えられてる気がします。それと同時に「それをどう裏切るの?」と問いかけられている気分になりました。

福田 そんな風に読んでくださって嬉しいです。仰る通り、ある意味警告の気持ちを込めて書いたところもあります。みんな食べ物描写を読むことに無防備過ぎるよって。例えば宗教の教えや逸話には万人にわかりやすいから、フード描写が頻発します。

加藤 どういうことですか?

福田 キリストの血と肉はワインとパンで表現され、アダムとイヴの失楽園は林檎を食べたからとか。宗派によって戒律で食べてはダメな食物が厳密に決まっていたり、仏陀の教えにはスジャータの乳粥やうさぎの自己犠牲など食べ物にまつわる逸話が多い。食事をしない人間はいないから世界中どこで布教しても食に喩えると教えやすいというか、そのように工夫されていると昔から個人的にそう感じていて、考えようによってはちょっと怖いんです。

加藤 やっぱりそうなんですね。今回読み直したときに、僕も小説の中で記号的に料理を使っていたんじゃないかと心配になりました。書き上げた後で感じたのですが、料理を扱うってけっこう怖いことだったんだなって。

福田 そう、でも二律背反なんですが、装置として使うことは、すごく有効なことでもあります。アニメや映画、マンガ、小説でもそうだけど、登場人物は血肉が通った生きている人間ですと表現するのに食事シーンは有効な描写です。絶対使っちゃいけないとか、すべてがステレオタイプに見えるということもないですよ。

加藤 以前、又吉直樹さんと「家族が死ぬような悲しいことがあっても、人って食べてるよね」という話をしたことがあります。どんなに悲しくてもお腹が空くのって、ちょっと滑稽ですらありますよね。お葬式のあと、みんなでお寿司とか食べたりするじゃないですか。なんでそんなめでたそうなもの食べてるんだろうって不思議な気持ちになっていました。

福田 たしかに。漢字に「寿」入ってます。通夜振る舞いとか精進落としといって、お通夜やお葬式に来た人たちで食事をともにしたりしますね。

加藤 そう、それです。あの食事がずっと不思議だったんですけど、昨年うちの社長のジャニーが亡くなったときのお別れ会で、初めてその意味というか、意義がわかった気がしたんですよね。

福田 何があったんですか?

加藤 お葬式やって、火葬が終わって、初七日の法要を終えたあと、事務所に所属しているタレントとごく一部の親族の方で食事をしたんです。缶ビールとかチューハイで献杯をして、みんなでお寿司を食べました。その中で、ジャニーさんのエピソードを一人ずつ話していくという時間があったんですよ。その話が本当に面白いんですよね。ジャニーさん自体が面白いからというのもあるんですが、泣ける話だったり笑える話だったり、それぞれのタレントが持ってるジャニーさんのエピソードがいちいち面白くて。そのときはじめて、こうやってみんなで食事をしながら話すというのも、弔いの一つのかたちなんだなと思えました。

福田 素敵な時間ですね。ジャニーさんを囲んで、みんなで大皿から取り分けて食事をすることで腹の底を見せ合った感じですよね。

加藤 そう、同じ釜の飯を食うっていうやつですね。文字通り同じ釜の飯を食ってきた仲間と、社長の最期にみんなで食事をして、みんなで弔った、見送ったという実感がありました。

福田 本当に素敵なエピソードです。一緒に食事をすると不思議な一体感が生まれるんですよね。

加藤 小説の中で料理を使おうとすると、そういう悲しいときに食事をさせるシーンを書くのって難しいんです。悲しいのに食べてるのって変じゃない? と思ってどう書いたらいいか悩みます。僕は『オルタネート』の中で、ダイキが失恋したとき彼の好物のカルボナーラを食べさせてるんです。最近『ゴロツキはいつも食卓を襲う』を読み直したら、「失恋のヤケ食いはいつも好物」と書いてあって、無意識にそう書いていたと思って、なんだか身につまされるというか、福田さんから見透かされているみたいでドキッとしましたよ(笑)。

フード作家・加藤シゲアキ


オルタネートで出会った二人の喫茶店での初デート。桂田はキューピットを飲んでいて、凪津はクリームソーダを頼む。

福田 先ほど「タマフル」リスナーだったって仰っていましたが、加藤さんも「タマフル」に出演されていましたよね。実は私、加藤さんが出演された回をリアルタイムで聞いていたんです。その時に宇多丸さんが、加藤さんのデビュー作『ピンクとグレー』(KADOKAWA)は「章タイトルが全部飲み物」とご紹介されていて、それは読まねばと思ってすぐに書店で買いました。

加藤 嬉しいです。お互い「タマフル」を通じて知ったんですね(笑)。『ピンクとグレー』、最初は違う章タイトルだったんですよ。でも、それはちょっとわかりにくいという意見があったのと、小説の中で印象的に飲み物を使っていたということもあって変えたんです。
 飲み物も面白いですよね。年齢とともに飲むものって変わるじゃないですか。二十歳になったらお酒が飲めるというのは分かりやすいですが、二十歳の人が飲むお酒と五十歳の人が飲むお酒は違うし、その時代で流行るものもあれば、個人的にやたらハマってずっと飲んでる飲み物とかもありますよね。

福田 なるほど。でも、章タイトル全部にしちゃうなんて、こんなに潔く書いてあるのを読んだのは『ピンクとグレー』が初めてでした。書きたい感情は同じでも、どういう風に書くか、その感情を表現するのに何を使うかで作家性が出ますよね。この章タイトルもそうですが、加藤さんは、食べ物を見たときに発想が湧く人なんだな、フード作家でもあるんだなって思いましたよ。

加藤 福田さんにフード作家と言っていただけるなんて光栄です。

福田 新刊の『オルタネート』にも、ほんとに料理がたくさん出てきて。読んでいてすごく楽しかったです。付箋をたくさんつけながら読みました。

加藤 嬉しいです。

福田 本当に面白く読みました。私、「食べ物のマンガが好きなんです」と言うと「食べ物のマンガって『美味しんぼ』とかでしょ?」って言われることが多いんですけど、『美味しんぼ』だけじゃないんですよね。羽海野チカさんの『3月のライオン』には食べ物がたくさん出てくるんですけど、あれは将棋マンガです。美内すずえさんの『ガラスの仮面』は女優を目指す少女たちの演劇マンガですが、よく読むとマヤと亜弓さまは、ほとんど食事演技で対決しています。食そのものを描いた物語より、下支えをしているのが食だという物語のほうが好きなんです。『オルタネート』も、小説の中に三つの柱があって、その中の一つは蓉が主人公の料理バトルの筋ですが、それだけじゃないですものね。


福田さんのお気に入り。三浦くんが欲しがる「蓉の作ったとうもろこしのバターおにぎり」。

加藤 印象に残ったシーンはありましたか?

福田 凪津は一度めは桂田と、二度めは君園と一対一で同じ喫茶店で会うのですが、そのときの飲み物描写が秀逸です。三角形な三者の内面がふと顕現するんですよね。それから今回、作中の料理をいくつか再現させていただいたのですが、三浦くんが「とうもろこしのバターおにぎり」を欲しがる場面は、フード的に胸キュンだったので、作れてうれしかったです。あとやっぱり「ワンポーション」対決は読んでいてワクワクしました。モチーフは料理なんだけれど、加藤さんはそこに、何かに一生懸命に打ち込むこととか、十代特有の悩みとかを込めて書いていますよね。食べ物を使うことでいろんな感情を顕現させてる。フード的に奥行きを感じて、すごく面白かったです。

加藤 それはやっぱり僕が料理が好きだからなんだと思います。あと、食べるものって毎回変わるじゃないですか。食べるという行為自体は変わらないですが食べるものは一食ごとに変わる。何を食べるかを書くと、そこに意味を持たせることができる。僕自身が、どういうときに何を食べるか意識して生きてるというのもあると思うんですけど。そうだ、一つお伺いしたいことがあるんですが、「ステレオタイプフード」って、アップデートされていくものですか。

福田 『ゴロツキはいつも食卓を襲う』の中でほとんど網羅出来ていると思います。出版から八年経ちますが、付け加えたいものはないですね。

加藤 食べ物に対する扱いというのは普遍的なもので、あまり変わらないってことなんですね。

福田 変わらないんじゃないかしら。どんな時代でも、やっぱり食べてる人はいい人っぽく見えるし、食べ物を粗末に扱う人は悪い人に見える。みんなが食事している中でひとりだけ食べないヒトは正体不明者に見える。だからこそ、表現の中で、その通りの人ですって認識させる装置としてフードを使ってもいいし、逆に言えば、何も食べないけど実は腹に一物もない人ですというふうに展開してもいいと思います。

加藤 かなり応用が利く考え方ですよね。作家はもちろんですが、役者もちゃんと知っておいたほうがいい。作家としては後から読むとほんとひやひやしますが(笑)。

福田 書き手でもあり役者でもある加藤さんならではの視点ですね。加藤さんが『オルタネート』で書いた中でお気に入りのフードの描写はありますか?

加藤 えみくがイチジクで何を作るかというシーンは、えみくのキャラクターを表現するうえで上手に使えたかなと思っています。あと個人的には、もやしが『オルタネート』の中でお気に入りのフードです。自分で言うのも恥ずかしいですけど(笑)。

福田 凪津の家で出てくるもやしと、蓉の実家の和食屋で出てくるもやしですね。

加藤 そうです。一方の家庭では安い食材としてのもやし。一方の家では和食屋で、ひげ根を取って出すもやし。同じ食材でも家庭や料理の方法が違うだけで、全く別のものになるということが書けました。

井戸の深さ

福田 私は上京してきた人間なので東京を舞台にした青春ものが好きなんです。『花より男子』とか『有閑倶楽部』みたいな、絶対にありえない派手な東京の学園ものも好きなんですが、『オルタネート』で書かれているような、東京の普通の高校生の生活が描かれている物語も好きなんです。都会に生きる現代の高校生の機微みたいなものをとても丁寧に書かれていますよね。そこに「オルタネート」っていう新しいツールを上手に組み込んでて。アプリの名前「オルタネート」に込められた意味もすごく面白いです。

加藤 僕、ニコラ・テスラ(編集部注・セルビア系アメリカ人の科学者。テスラコイルの発明などが有名)がすごく好きなんです。エジソンとの電流戦争の話とか面白いですよね。雷な感じって運命っぽいし、なんかマッチングアプリ的だなと思いました。

福田 確かに。インターネットの世界での結びつきと運命的なものとどちらもイメージできますよね。

加藤 小説の中の「オルタネート」は、高校生限定で、安全が保証されてるサービスなんです。親とか国家とか、大人が推奨してるようなイメージ。でも、もしもそういうものだとしたら、やっぱり意志を持ってやらない人って出てきますよね。絶対に全員がやるわけではないだろうな、高校生なりにいろんなことを考えるだろうなっていうところがスタートでした。

福田 キャラクターとストーリーはどこから降りてくるんですか。

加藤 テレビの企画で最新のマッチングアプリ事情を取材したことがあるんです。そこで、マッチングアプリの賛否について議論というか、賛成と反対両方の意見を聞く機会があったんです。「オルタネート」っていう高校生限定のサービスが存在する世界で僕が高校生だったとして、僕はやらないタイプだなって思ったんですよね。だから、やらない子、めちゃくちゃハマる原理主義な子、やりたくてもやれない子、この三人を書きたいなと思いました。

福田 それぞれ蓉、凪津、尚志に当てはめたのはどうしてですか?

加藤 十代でそういうのに熱中するのは女の子かな、と思って凪津が最初に生まれました。「やらない子」は凪津との対比もできるから同性のほうがいいと思って蓉も女の子にしました。二人が女の子なので「やりたくてもやれない子」は男の子にしようと尚志のキャラクターを作りました。

福田 なるほど。蓉を料理部という設定にしたのは何か思いがあるんですか?

加藤 蓉みたいな「やらない子」は、他の何かに打ち込んでたほうがいいなと思って、部活に所属している設定にしました。日本一を目指すスポ根的な価値観で生きている高校生。部活って日本独特の文化だし、十代にしかない世界だし、ちょっと特殊ですよね。そういう世界を書いてみたいなと思ったのと、僕が料理が好きだったので、料理バトルを書いてみたいと思って料理部にしました。

福田 それで「ワンポーション」というフードバトルが生まれたんですね。現実の未来でも起こりそうな設定ですごく惹き込まれました。

加藤 高校生の料理コンテスト、結構あるんですよね。めちゃくちゃレベルの高い高校生も実際にいて面白いんですよ。そういう現実の企画もいろいろ調べましたし、料理本も資料として沢山読み込みました。

福田 『エスコフィエ』が参考文献にありましたね。コンスタントに小説を書き上げている加藤さんを見ていると、明らかに「職業・作家」だと感じます。書き始める前は、自分の中にある書きたい欲の井戸がどのくらい深いのか分らないじゃないですか。一冊書き上げたら気が済んだ、というお気持ちにはならなかったんですか?

加藤 『ピンクとグレー』を書き終えたときに、書店回りをしたんですよ。いろんな書店員さんが応援してくれたんですが、その中で「書き続けてくれないと応援できない」と言われたんです。

福田 それは、ちょっと背筋がピンとなりますね。

加藤 「書店が応援するということは売るということだから、書き続けてくれ」という意味だったんですけど、それを聞いて、書かなかったら「自称作家」とか「元作家」になってしまうなと意地になったところもあります。幸い、二作目に書きたいこともあったのですぐに取り掛かれました。

福田 加藤さんの井戸はとても深かったんですね。

加藤 そうかもしれません。でも、書くことの井戸というよりは、書くことを知るための井戸というか、好奇心が異常に強いんだと思います。書くためにはいろんなことを知らなきゃいけないんですよね。『オルタネート』でいうと料理とかドラムとか、いろんな景色を知らなきゃいけないんですが、僕は幸いにもタレントという立場でお仕事させてもらう中で、いろんな経験ができるんです。どの仕事も全部小説の種になるというのはとてもありがたいことだと思っています。二作目に書いた小説はカメラがモチーフの一つなんですが、僕がカメラが趣味だったので小説にできました。結局、好きなものを小説にしているだけなんですよね。

福田 加藤さんはそれが普通だと思っているかもしれないけど、そうじゃない人ばかりですよ(笑)。ほとんどの人にとって、趣味はあくまで趣味なんです。そこから物語を生み出せる人なんて尋常じゃないです。興味があるもの、好きなものを物語に転化するって、すごいことです。

加藤 そうなんでしょうか……。でも突き詰めたら、僕はやっぱり「タマフル」のおかげだと思っています。

福田 いや私もヘビーリスナーでしたが小説は書けませんよ。「タマフル」を聞いていて、小説を書こうと思ったんですか?

加藤 そうです。小説を書こうと思ったときに、宇多丸さんのラジオの映画評論を聞いてきた中で知ったことがベースになったんです。こういうときに人は面白いと思うんだっていうことは「タマフル」で学びました。例えばデビュー作の『ピンクとグレー』は、「タマフル」で知った『(500)日のサマー』の構造を参考にすることで書きあげられたんです。何を書くかは自身の芸能の経験だったり、料理の経験や興味ですが、物語にできたのは宇多丸さんの映画評論のおかげなんです。

書くこと、演じること

福田 私、役者としての加藤さんの演技で好きなのがテレビドラマの「金田一耕助」シリーズなんです。

加藤 え、本当ですか。ありがとうございます。

福田 石坂浩二さんが演じてらしたころ、封切りで映画を見に行っていた世代ですが、加藤さんが演じる金田一耕助もとても素敵です。あの髪型、ばっちり似合ってます。ドラマでは加藤さんで15代目、金田一は代々いろいろな俳優さんが演じるという特異なキャラクターですが、歴代の俳優さんの中で本格的に小説を書かれる方はいないです。金田一という横溝正史の超有名な愛されキャラを演じながら、一方でご自身の小説の中でも架空のキャラクターを作り上げていますよね。どういうお気持ちになりますか?

加藤 金田一耕助は、本当にいろいろな方が演じてこられたから演じるのは正直とても難しいですね。いまだに本当に悩みます。一方で、横溝正史の小説を読み返すと、映像で見る金田一とはまた違うエンターテインメントなんですよね。文体がポップというか、アクロバティックというか。ミステリーを書くならこういうものが書きたいと思わせる小説です。

福田 書いてみたいって思われるんですね。そんなことを考える俳優はいませんよ。すごく稀有な感覚だと思います。

加藤 そうですね。演じるときは、映像作品の中の一つのキャラクターなので、この監督の世界で自分がどう役を表現できるかということを考えます。でも小説を読むと、いや僕ならここはこう書くな、ということを考えちゃいますね。横溝正史に言うなんて恐れ多いですけどね(笑)。

福田 最近ホームズもので盛んなパスティーシュならアリでは? 加藤シゲアキ版金田一、読んでみたいです。ところで、金田一って、すごくよく食べますよね。

加藤 食べますね。金田一が飄々としたキャラクターだというのを表現するためだと思うんですが、映像の中でも食べるシーンがすごく多いんですよ。芋を口に突っ込まれたりとか、事件が起きても、走る前にとりあえず一口食べてから動くとか。マイペースで、何かを食べながらでも死体を見れそうな、ちょっと変わったキャラクターを表現するための装置として使われていますね。

福田 テレビに出るときや役者さんのときの加藤さんは何かしらのキャラクター=性格を演じていて、小説を書くときにパーソナリティ=人格が出るのかなと思いました。

加藤 そうですね、書いているときは自分の人格や人間性がどうしても出ちゃいます。自分のことをしゃべるよりも、自分の本を読まれることのほうが、自分のキャラクターがばれてしまう気がします。

福田 深いです。でも読者がつくということは、その加藤さんの個性が愛されてるってことですよね。

加藤 最近は、その境界線が少しずつなくなってきたような気もします。『ピンクとグレー』を書いたときは小説家を演じながら書いてたんです。あまり正しくないのかもしれないですけど、小説家役をやっているようなイメージでした。

福田 小説家を憑依させてる感じですか?

加藤 そんなにかっこいいものでもないんですけど(笑)。小説家はきっとこんな格好で書くだろうとか、そんな感じですね。でも書いているうちに、登場人物を演じながら書くような感覚になってきたんです。だから、ちょっと変ですけど、蓉を書いているときは、蓉を演じながら、凪津のときは凪津を演じながら書いてるんです。三人称ではありますけど、蓉の視線で景色が浮かんでたりするんですよね。僕にとって、この先も書くことと演じることはそんなに遠くない感じがしています。

 ***

福田里香(ふくだ・りか)
菓子研究家。武蔵野美術大学卒。果物の老舗・新宿高野に勤務後独立。著作に『新しいサラダ』(KADOKAWA)、『民芸お菓子』(Discover Japan)など著書多数。料理本のほか、映画や漫画などの中で取り上げられる「フード表現」の法則や意味を紐解いた『ゴロツキはいつも食卓を襲う』(太田出版)も話題に。

加藤シゲアキ(かとう・しげあき)
1987年生まれ、大阪府出身。青山学院大学法学部卒。NEWS のメンバーとして活動しながら、2012年1月に『ピンクとグレー』で作家デビュー。以降『閃光スクランブル』、『Burn.-バーン-』、『傘をもたない蟻たちは』、『チュベローズで待ってる(AGE22・AGE32)』 とヒット作を生み出し続け、2020年3月には初のエッセイ集『できることならスティードで』を刊行。アイドルと作家の両立が話題を呼んでいる。

新潮社 小説新潮
2020年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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