『葬儀屋 プロレス刺客伝』
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<東北の本棚>あふれる「プロレス愛」
[レビュアー] 河北新報
昭和の時代、プロレスはテレビのゴールデンタイムで放送され、子どもから大人まで楽しんだ人気番組だった。当時の人気レスラーの多くが去り、番組自体もなくなって久しい。昭和世代に懐かしさを感じさせるプロレスとは一体何だったのか?
いや、失礼。テレビからレギュラー番組がなくなっただけで、プロレスはいまだ健在だ。多くの人たちにとって身近な存在ではなくなったが、全国各地にコアなファンが多いと聞く。
そのプロレスの「復権」を目指したのかどうかは知らないが、本書は怪談作家の肩書を持つ山形市在住の著者が、「プロレス愛」をこめて文庫のために書き下ろした娯楽小説だ。シリアスそうなタイトルとは裏腹に、真面目に、コミカルに、要所要所で情熱的に、テンポ良くストーリーが展開する。リング内外で、シングルマッチのようなスリリングな物語が繰り広げられる。
素性が一切不明な流れ者レスラー、サーモン多摩川の付き人になった練習生梶本誠が、ふざけたファイトで不評を買う多摩川の異様な特訓に翻弄(ほんろう)される。特訓の目的は、対戦相手を葬る「葬儀屋」稼業の事前準備だ。葬るとはいえ、再起不能にするわけではない。
文脈から主人公は梶本だが、場面ごとの登場人物それぞれに物語がある。第1話「葬儀屋」から第5話「前座(アンダーカード)」まで、独立したストーリーをミステリー仕掛けでつなぎ、ラストに導く。
「僕がプロレスに感じる素晴らしさ、疑問、危機感を代弁してくれているような作品なのだ」。総合格闘技選手でプロレスラー青木真也の解説が熱い。プロレス愛の文章が、現役選手にもしっかり届いている。多少の世辞もあるだろうが、少しでも興味があれば十分に楽しめる。
同じ文庫から「掃除屋(クリーナー) プロレス始末伝」が既刊。シリーズ化の期待が高まる。(相)
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集英社03(3230)6080=748円。