日独ハーフの女性作家が考える、欧米人と日本人との感じ方の違いで驚いたこと

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日独ハーフの女性作家が考える、欧米人と日本人との感じ方の違いで驚いたこと

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(サンドラ・ヘフェリン 著、中央公論新社)の著者は、父親がドイツ人、母親が日本人の「ハーフ」。子どものころから、母親からは日本語で、父親からはドイツ語で話しかけられるという、ユニークな環境で育った人物です。

22歳までドイツで暮らし、以後は23年にわたって日本にお住まい。つまり、いまや日本での滞在のほうが長いわけです。

したがってドイツが「母国」であることは間違いないものの、日本もまた「母国」ということになります。ご自身も、「母国が2つ」という自覚をお持ちなのだそう。

ただし決して楽ではなく、むしろ大変なことのほうが多かったようです。

ハーフであるため子供の頃からドイツでも日本でもいろんなことを周囲から言われてきました。

ドイツに住んでいた時は「どうして日本に住まないの? 日本に住んだほうがいいよ」と言われたことがありますし、日本に住んでからは「どうしてドイツに住まないんですか? ドイツのほうが住みやすいのだからドイツに住んだほうがいいですよ」と言われることもあります。

でもそれをイチイチ真に受けていては、ハーフの人生はやってられません。その都度「私は今ここにいるのだから」と、相手の言うことにノーを突き返してきました(笑)。(「まえがき」より)

それは、「ハーフならではの視点」「双方の気持ちが理解できるからこそ身についた感覚」にもつながっていくはず。

事実、ヨーロッパと日本で生活をしていくなかで、その地の女性がどんな生き方をしているのか、どんな悩みを抱えているのかなど、「その国特有の女性の立ち位置」のようなものも含めて「現場」を見てきたという自覚があるそうです。

つまり、そうした視点を軸として書かれたのが本書だということ。きょうは第1章「こんなに違う 美意識のなぜ?」のなかから、「マスク」についての感じ方の違いなどを確認してみたいと思います。

「マスク=不審者」のイメージ

新型コロナが猛威を振るういま、マスクの着用は欧米でも一般化しているようです。しかし「新型コロナ以前」の欧米社会を思い出してみると、欧米人のマスクに対するアレルギーは相当なものだったと著者は振り返っています。

私は以前より、予防のためにマスクをすることがしばしばあったのですが、マスクを着用している日に、仕事などでうっかりドイツ人に出くわしてしてしまうと、必ずといっていいほど彼らからツッコミが入ったものです。

「この間、会った時もマスクだったね。本当に君はマスクが好きなんだね」と皮肉を言われることもあれば、意味ありげに「君は本当に日本人なんだね」と言われたりと、とにかく「余計な一言」が多かったと記憶しています。(85ページより)

それどころか、なにもいわずに怪訝な顔をして見る人もいたのだとか。日本国内にいるドイツ人ですらそうなのですから、ドイツ国内でのマスクに対する人々の拒否反応はすごいものだったといいます。

新型コロナが現れる前のドイツでは、マスク姿というと銀行強盗もしくは不審者というイメージだったのだそうです。欧米人にとって「相手の顔が見えない」というのは、怖くて不気味なことだったということ。(84ページより)

サングラス 欧米は「OK」、日本は「失礼」

でも、顔が見えないのが怖いなら、なぜ欧米ではサングラス姿の人をよく見かけるのでしょうか?

この点についてはさまざまな理由があり、そのひとつとして、日本人も欧米人も互いに意識していない「礼儀」や「美意識」の問題が挙げられると著者はいいます。

欧米人はおもに「口」で表情をつくるため、顔の下半分が見えないと「相手の表情がわからず怖い」「不気味だ」と感じる傾向があるということ。したがって顔の下半分を隠すのは相手に対しても失礼であり、礼儀にかけているという捉え方をする欧米人が多かったわけです。

逆に日本ではまだまだ、「サングラスは失礼」と考える人も多いのではないでしょうか?

私が日本に来たばかりの頃、プールサイドにあるカフェでアルバイトをしていたのですが、屋外であったためにまぶしくてサングラスをしていたら、「サングラスで接客をするのは失礼だ」と怒られました。

ただし、サングラスをはずすと、まぶしくて目を開けていられなかったため、「目が弱いんです」と説明し、サングラスをしてもよいことになりました。

この時に、「日本ではサングラスをするのは『失礼』にあたるんだ」と知って、目からうろこが落ちる思いでした。(86ページより)

たしかにサングラスには、どこかカジュアルでくだけたイメージがあるため、目上の人と会うときや接客時な度で、サングラス姿はふさわしくないというのが日本人の共通認識かもしれません。

また日本では、不良や反社会的な人が「目の表情」を相手に悟られないためにサングラスをしているという説もあったりします。そのぶん余計に厄介なのかもしれませんが、著者はその「目の表情」という部分が日本的でおもしろいと感じたそうです。

なぜなら、意外なことにヨーロッパでは、日本ほど「目の表情」にスポットライトが当たらないから。そのため屋外であれば、お堅い場であったとしてもサングラス姿は失礼にはならないということです。

とはいえ、屋内でのサングラス姿は、日本と同じように不審な印象を与えてしまうので、やめておいたほうがよいといいます。

また、欧米の「サングラスがOK」の背景には、別の事情も絡んでいるようです。白人は瞳の色素が薄い人が多く、太陽の光に敏感だということ。上記のプールサイドでのエピソードも、そのあたりが関係しているように思えます。

そういう意味でも、ただ闇雲に非難や否定をするのではなく、「その裏にある事情」を推測することも大切なのかもしれません。(85ページより)

本書はハーフの女性としての立場から、欧米人と日本人の違いについて書かれたものですが、もうひとつポイントがあるようにも思えました。

「男女差を知る」という意味において、男性にとっても参考になりそうだということ。そういう意味では、著者が考えているよりも広範な層に受け入れられる一冊であるといえそうです。

Source: 中央公論新社

メディアジーン lifehacker
2021年3月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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