イメージを壊すことにとらわれず、執筆したその先に見えた物語の核とは!!

エッセイ

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罪人に手向ける花

『罪人に手向ける花』

著者
大門剛明 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758443999
発売日
2021/03/15
価格
792円(税込)

書籍情報:openBD

『罪人に手向ける花』刊行によせて

[レビュアー] 大門剛明(作家)

最新刊『罪人に手向ける花』刊行記念エッセイ

 イメージというのはいいかげんなものだ。怖そうに思えた人が優しかったり、その逆もあったりする。かくいう私も最近、法廷ものを多く描いているせいか、いつの間にか堅いイメージがついてしまっているようだ。そのためかサインをするとき、イメージと違うと驚かれる。私がいつも書いているサインは、名前とともに二匹の猫の絵が入っている。なんともゆるいサインだ。書くのに時間がかかってしまうという難点があるものの、そんなに書く機会もないのでまあいいやと思って気にしていない。

 新刊『罪人に手向ける花』の主人公は黒木二千花という若い女性検事だ。イメージと言えば、女性検事にも一定のイメージがあるように思う。凜として正義感あふれる断罪の女神。ひとことで言えば強い女性だ。以前、取材で会った東京地検の女性検事さんは優しげな普通の女性だったのだが、不要に男性に恐れられて婚活に苦労しているという。主人公である二千花を描くにあたって、最初はそういう女性検事のイメージを壊したいと意気込んでいた。だがそもそも私のイメージなどいいかげんなものかもしれない。イメージを壊すことにとらわれず、彼女の言動を元に自由にイメージを膨らませることができるようにしたいと思い直した。そこで二千花自身の視点をなくし、物語は検察事務官や検事、被疑者に弁護士といった男性の目を通じて進行するようにしてみた。

 物語は二十三年前から始まる。殺人事件で一人の男が逮捕されたが、確実な証拠がなく結局不起訴になる。取調べにあたった警察も検察も無念のほぞをかんだ。

 そこから時が流れ、舞台は現在へ。二十三年前に不起訴になった男が再び殺人容疑で逮捕される。検察事務官・立原はこの男の取調べに過去と現在の二度も立ち会うことになるのだが、その相方の検事が主人公の二千花だ。ただ立原は人知れず頭痛の卵を抱えていた。二千花は立原が理想とする検事像からほど遠く、いつものほほんとしていて、ゆるふわ系。花や緑を愛で、検事室がまるで植物園のようになっている。定時が過ぎると早く帰ってしまい、引き留めようとする立原に向かって私は頑張りませんと宣言をする始末。だが二千花とともに仕事をこなしていくうちに、彼女に対するイメージが大きく変わっていく。そして最終的に立原がたどり着いた二千花の真の姿は、最初に感じたイメージとはかけ離れたものだった……。過去と現在の事件の真相を追うとともに、二千花というゆるふわ女性検事のイメージが徐々に塗り替えられていくことも物語の核になっている。二千花の発する植物小ネタとともに気軽に楽しんでいただけると嬉しい。それと同時に私のイメージも堅いものを描くというものから、面白いものを描くというものへと変わってくれたらいいなと思う今日この頃である。

 ***

【著者紹介】
大門剛明(だいもん・たけあき) 
三重県生まれ。2009年『雪冤』で第29回横溝正史ミステリ大賞とテレビ東京賞をW受賞しデビュー。他著に『罪火』『完全無罪』『死刑評決』『正義の天秤』など。法廷ミステリーの書き手として注目を集めている。

角川春樹事務所 ランティエ
2021年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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