衝撃的な死の真相 安易に死に憧れる人に本書を差し出したい

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  • その日、朱音は空を飛んだ
  • 教室が、ひとりになるまで
  • ひとでちゃんに殺される

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衝撃的な死の真相 安易に死に憧れる人に本書を差し出したい

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 今年、現代の大学生の経済事情や親子問題を描いた『愛されなくても別に』で吉川英治文学新人賞を受賞して注目される武田綾乃。文庫化されたばかりの『その日、朱音は空を飛んだ』は企みに満ちた衝撃的な青春小説だ。

 高校の屋上から川崎朱音が飛び降りて死んだ。後日、生徒たちはいじめに関するアンケートを書かされる。本書は各章の冒頭に、その章の中心人物となる生徒の手書きのアンケート回答が提示される。多くの生徒の回答はそっけないが、その裏に渦巻く思いはさまざまだ。本当に自殺なのか疑う男子、同情を示しながらも格好の話題として飛びつく女子グループの一員……。それぞれの本音が明かされていくなかで教室内のヒエラルキーや、生前の朱音の行動が見えてくる。

 各章の冒頭ではなく最後に掲げられる章タイトルが、その生徒の本質を突く鋭い言葉で唸る。なにより衝撃的なのは朱音の死の真相で、茫然としてしまうほど。もしも安易に死に憧れる人が身近にいたら本書を差し出したい。きっとそんな気持ちが吹き飛ぶから。

 浅倉秋成『教室が、ひとりになるまで』(角川文庫)も、ダークな学園小説だ。生徒の自殺が相次ぐ北楓高校。この学校では代々秘密裡に卒業生から数人の後輩に特殊能力が引き継がれている。偶然その一人となった友弘は、自分とはまた別の能力を引き継いだ誰かが他の生徒を自殺に追いこんでいると知る。能力の設定や制約、犯人捜しの方法がなんともユニーク。細やかな伏線回収でも読ませるミステリだが、思春期の他者との関わりあいの苦悩や苦痛も鮮烈に描かれる。

 さらにダークな方向に行くなら片岡翔『ひとでちゃんに殺される』(新潮文庫nex)を。とある高校で生徒の死亡事故が頻発、背後には一人の生徒の憎悪と悪意が存在していた。そこに転入してきた縦島ひとでは、どこか謎めいた美少女。やがて同級生たちは、ひとでによって究極の選択を迫られることに……。脚本家、映画監督としても活動する著者が、がらりと作風をかえてきたサスペンスホラー。

新潮社 週刊新潮
2021年5月27日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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