粋で雅な(?)ブライダルミステリ――『スカイツリーの花嫁花婿』著者新刊エッセイ 青柳碧人

エッセイ

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スカイツリーの花嫁花婿

『スカイツリーの花嫁花婿』

著者
青柳碧人 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334914004
発売日
2021/05/26
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

粋で雅な(?)ブライダルミステリ

[レビュアー] 青柳碧人(小説家)

 東京スカイツリーの通常ライトアップには三種類ある。「粋」「雅」「幟(のぼり)」と名付けられたそれぞれの照明が、毎晩日替わりであのスタイリッシュなフォルムを彩るのだ。

 開業当初から東京スカイツリーが好きで、いつか作品に登場させたいと思っていた。折から降ってきたアイディアとジャン・コクトーの戯曲『エッフェル塔の花嫁花婿』のタイトルが頭の中で組み合わさり、書きはじめたのが、今回上梓することになった『スカイツリーの花嫁花婿』だ。

 物語は「カーテンコール」と題された、挙式の直前のシーンから始まる。花嫁は両親の前で幸せをかみしめつつ、別室にいる花婿のことを考えている。だがここでは、その花嫁・花婿の名前は明かされない。第一章からは、曳舟(ひきふね)、錦糸町、秋葉原……とスカイツリーの見える街を舞台に、恋に不器用な男女の悲喜こもごもが描かれるドタバタ前日譚。いったい冒頭の花嫁と花婿は誰だったのか。「犯人捜し」ならぬ「花嫁・花婿捜し」という、一風変わったミステリに仕上がった……と、著者本人は思っている。

 いちばん注目してほしいのはクライマックス、夜の東京スカイツリーに見守られながらのプロポーズのシーンだ。実際に隅田川(すみだがわ)沿いのカフェにノートパソコンを持ち込み、暮れゆく空に聳(そび)えるスカイツリーを見ながら書いた。当夜のライトアップは「雅」であった。

 ミステリだが、ラブコメディと思って読んでもらってもまったく構わない。ミステリファンが「これ読んでみてよ」とミステリを読まない人に紹介したくなる作品―というのがいちばんの理想である。自粛ムードで出会いの場は少なくなり、不器用な男女がいっそう恋愛に踏み出しにくい世になった。せめて小説の中でくらいこんなことが起こってもいいじゃないかと、愉快な気持ちで読んでもらえたらうれしい。

光文社 小説宝石
2021年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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