『密室は御手の中』
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あの興奮を目指して 犬飼ねこそぎ
[レビュアー] 犬飼ねこそぎ(作家)
『密室は御手(みて)の中』は自分にとって、人生の過渡期の作品であるように思います。
それまでの創作や読書、他者との交流を経て培(つちか)ったものを発揮し、集大成となるような作品を目指して書いたという意味での過渡期。そして、書き手である自分自身は二転三転と環境が変わる中で執筆を続ける状態だったという意味でも、過渡期の作品でした。
書き出した当初と今では、日々の生活も大きく様変わりしており、予想もしていなかった状況にやってきてしまったというような心持ちです。そうした外的変化が内面にも影響したのか、作中で展開される物語や、登場人物たちに対する思いも変遷しながらの執筆でした。
一方で、そのようにふらふらとした執筆を通してもずっと変わらず、今もなお抱き続けているものもあります。ミステリの魅力に対する信頼です。それは例えば、名探偵の格好良さ。あるいは、舞台設定の掻(か)き立てる高揚。そして何より、謎解きの面白さ。
不可解な謎があって、推理の果てに解決される。トリックがどかーんとあってロジックでばしーっと解き明かす。奇抜な仕掛けで驚かせて、精緻な理論で唸(うな)らせる。それが一番面白くて、素敵で、最強。そうした愛慕と信念と偏執を動力に書き上げたのが、この作品です。超すごいトリックと超かっこいいロジックで作られた超素敵なミステリを目指し、自分の好きなものを詰め込んで書き上げた物語です。
高く掲げたその理想に、果たして手が届いているのかどうか。どうか届いていてほしい、という思いも当然ありますが、まずはより単純に、読者の方々に楽しんでもらえるミステリに仕上がっていてほしいというのが、正直な今の願いです。これまで自分がそうであったように、面白くて楽しいものに出会えることこそが、何より幸せなことだと思うので。