平成史 昨日(きのう)の世界のすべて 與那覇(よなは)潤著

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平成史―昨日の世界のすべて

『平成史―昨日の世界のすべて』

著者
與那覇 潤 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784163914114
発売日
2021/08/06
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

平成史 昨日(きのう)の世界のすべて 與那覇(よなは)潤著

[レビュアー] 平山周吉(雑文家)

◆戦争を忘れた果ての荒廃

 同時代日本をいま最も鋭利に、隈(くま)なく全方位で批判できる能力を持っている書き手は、「元歴史学者」を自称する與那覇潤であろう。

 六月に出た時論集『歴史なき時代に』(朝日新書)は、コロナ下の言論のいかがわしさと日本社会の脆弱(ぜいじゃく)を、軽やかな筆致をもって批判した、手ごわい本だった。その與那覇がおそらく満を持して書いた、重量感あふれる必携の同時代史が『平成史――昨日の世界のすべて』である。

 バブル崩壊から天皇「生前退位」までの平成三十年間には、阪神淡路大震災、オウム事件、3・11があり、政権交代もインターネット覇権も、数々の知識人の失墜もあった。

 言論はお手軽になり、あらゆる来歴は忘却され、「インフルエンサー」主導の騒々しい現在だけが消費されていった。崩れと炎上の果てに荒廃しきった日本の表情を、著者は高度な整理能力と辛口エピソードの摘出で描き切っている。

 與那覇は一九七九年生まれなので、平成元年には十歳である。早熟な少年だったから、彼にとって「平成史」とは頭と目と身体で経験してきたすべてだ。その強みを十二分に生かしているので、誰でもが読める史書となっている。

 與那覇の史眼が並でないのは、「平成史」を描くために一九七〇年にまでさかのぼった点だ。三島の自決があり、翌々年にはあさま山荘事件が起きた。與那覇はその時期を「後期戦後」と名づけ、「平成」も含め五十年のスパンで歴史を遠望する。その五十年は戦争経験者が次々と退場する過程だった。彼らの肉体が下支えしていた「歴史」が失われると、その後には「いまさえ勝ち抜ければ後はどうでもいい」という「瞬間」至上主義がはびこった。それは与野党、左右、老若を問わずだ。

 本書を読んでいると、この一年半、幾つもの行けなかった葬儀を痛切に思い出す。コロナのせいで、何人もの先輩知人友人を葬祭場でねんごろに送ることができなかった。本書はその空虚感をいささかでも埋めてくれる。死者との対話をうながす、鎮魂の書でもある。

(文芸春秋・2200円)

1979年生まれ。歴史学者。著書『知性は死なない』『中国化する日本』など多数。

◆もう1冊

佐藤優、片山杜秀著『平成史』(小学館文庫)。パワフルな対談集。ユニークな年表も。

中日新聞 東京新聞
2021年9月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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