対中政策の綻びが浮き彫りに着実に忍び寄る中国の“侵略”

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中国「見えない侵略」を可視化する

『中国「見えない侵略」を可視化する』

著者
読売新聞取材班 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784106109195
発売日
2021/08/18
価格
858円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

対中政策の綻びが浮き彫りに着実に忍び寄る中国の“侵略”

[レビュアー] 赤石晋一郎(ジャーナリスト)

 二〇二〇年秋に浮上した学術会議任命拒否問題から一年が経過した。「学問の自律を脅かす行為」と学術界からは批判の声が多いこの騒動の真相は、未だに明らかにされていない。

 筆者も同騒動については取材に動いていた。政府が学術会議改革に拘る理由の一つは、“中国への知識、技術流出への懸念”だったはずだ。そう確信を得たころに注目すべき記事が出た。

〈中国「千人計画」に日本人 政府、規制強化へ 情報流出恐れ〉

 二一年元日、読売新聞が一面トップでこのようなスクープを書いてきたのだ。記事は海外から優秀な研究者を集める中国の人材招致プロジェクト「千人計画」に、少なくとも44人の日本人研究者が関与していたことを明らかにしたもので、政府も規制強化に本腰を入れると報じていた。本書は元日スクープ記事を書いた記者を含む読売新聞取材班による、中国の脅威を赤裸々に描いた一冊となっている。

 筆者は昨秋以来、学術会議問題を取材するとともに、日本の税金が中国の軍事研究に使われている可能性があるという「情報」を追い続けていた。それだけに読売新聞の記事は、興味深く読んでいた。

 本書のタイトルになっている「見えない侵略」とは、学問や経済などこれまでは“自由”が重んじられてきた分野に中国が狙いを定め、密かに侵略を進めていることを指している。世界中から研究者を中国に招致する「千人計画」もその一環であるし、日本の大学が多く受け入れている中国人研究者や留学生も侵略の尖兵となっている可能性がある。だが日本側の対策は遅々として進んでいない。

 岸田政権でしきりに「経済安保」という言葉が使われるようになったのは、経済界、学術界も含めて対中対策を真剣に導入しなくてはいけない局面に差し掛かっていることを意味する。

 本来は、学術会議任命拒否問題も経済安保対策の一環だったはずだ。だが、そう世間に理解されていないのは、政府側が任命拒否問題で「経済安保問題」と「思想問題」を混在させてしまっているからだろう。憲法に抵触する恐れがある問題を含めてしまったが故に、政府側は任命拒否の理由を明らかにできないという袋小路に入り、知識、技術流出への対応が後手に回ってしまった。つまり日本政府は多くの局面で失敗を繰り返しているように見えるのだ。

 本書で描かれた「見えない侵略」が浮き彫りにしたモノとは、日本政府の対中政策の“稚拙さ”そのものなのではないだろうか。

新潮社 週刊新潮
2021年11月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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