<東北の本棚>「明白な危険性」訴える

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私が原発を止めた理由

『私が原発を止めた理由』

著者
樋口英明 [著]
出版社
(株)旬報社
ISBN
9784845116805
発売日
2021/03/01
価格
1,430円(税込)

<東北の本棚>「明白な危険性」訴える

[レビュアー] 河北新報

 2014年、福井地裁が出した関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の再稼働を認めない判決は世間を驚かせた。東京電力福島第1原発事故に正面から向き合い、「血の通った判決」と言われた。当時、裁判長として判決を出したのが著者である。

 17年に退官したとはいえ、裁判官が自分が関わった事件を論評するのは異例。同書を出版した理由について著者は「専門家でもない私の目から見ても、原発の危険性があまりにも明らかだったから」と述べる。

 著書では、原発事故の被害は極めて甚大だと強調。福島の事故は奇跡が重なったため、福島以外の東北各県や首都圏で大勢の人々が避難する事態は避けられたとみる。

 さらに原発には高度の安全性が必要だが、配管、配電を含めた各原発の耐震設計基準は、一般住宅を下回るなど極めて低いと主張。国内の原発で耐震設計基準を超える地震が過去10年足らずで5回起きるなど、いつ、どこでも地震が起きる可能性があることから、事故発生確率は高いと訴える。

 高校生以上の人が理解できるように書いたとあって説明は分かりやすい。原発はゴジラや核兵器に、40年以上の老朽原発は40年前に製造された飛行機に例える。使用済み核燃料を地下300メートルの所に10万年保管しなければならない点については「現実離れした非常識な計画」と一刀両断する。

 著者が出した判決は18年、二審で取り消された。福島の事故から10年半が過ぎ、新たな原発の安全神話がつくられようとしている。政府や経済界には脱炭素社会実現のため原発が必要とする声もあるが、事故が起きれば環境汚染は取り返しがつかない。原発は安全なのか。次世代に残していいのか。福島の人々の気持ちを代弁したかったという著者の問い掛けが重く響く。(裕)
   ◇
 旬報社03(5579)8973=1430円。

河北新報
2021年11月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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