ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか 酒井隆史著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか

『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』

著者
酒井 隆史 [著]
出版社
講談社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784065266595
発売日
2021/12/15
価格
1,012円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか 酒井隆史著

[レビュアー] 武田砂鉄(フリーライター)

◆蔓延する自己肯定の演技

 ブルシット・ジョブ(BSJ)とは、「あってもなくてもクッソどうでもいいし、それどころか、なにかダメージをもたらすこともある」仕事のこと。

 自分が取り組んでいる仕事の意義を必死にプレゼンする光景に時たま出くわす。自分がいなければこのプロジェクトは動かなかったし、自分の介入があってこそ、こうして形になったのだ、と。その手のマウンティング(優位性を示すこと)は四方八方で飛び交っている。自分に与えられているポストと仕事は本当に必要なのかと問われるのを嫌がり、自分自身で無意味だと自覚してしまうのを怖がる。

 「たんに無目的であるだけではなくまた虚偽(falseness)でもあるということ」がBSJ論のポイント。「たのしんでいるかのような演技」が求められ、感情を動員しなければならないケースが数多くの仕事に存在している。本来、効率的に仕事をする中でその演技は不要であるはずが、「虚偽」が求められてしまう。笑顔を振りまく必要なんてないのに、前提として笑顔を要求される。

 D・グレーバー『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』の共訳者による一冊は、効率化が極まる社会の中で、なぜ「クソどうでもいい仕事」が蔓延(まんえん)しているのか、その理由を解き明かしていく。新自由主義(ネオリベラリズム)は官僚制と相反するどころか、むしろ官僚制を招くのはなぜか。

 コロナ禍でエッセンシャルワーカーが注目され、低賃金で代替可能とされてきた労働者への感謝が膨れ上がった。一方で「クソどうでもいい仕事」の可視化に怯(おび)える人がいる。自分を肯定する場が失われそうになっているのだ。

 グレーバーが大切にしていた概念が「想像力」。それは他者の安全をケアし、心持ちを推測すること。モノの生産においては排除されているが「現実を組み立てる要の役割」をはたすもの。「虚偽」で取り繕うのではなく、「想像力」によって現実を組み立てていく。無駄な仕事なんてない、ではなく、無駄な仕事はある。直視して、この先の仕事を探し当てていく。

(講談社現代新書・1012円)

1965年生まれ。大阪府立大教授・社会思想。著書『暴力の哲学』など。

◆もう1冊

デヴィッド・グレーバー著『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』(岩波書店)。酒井隆史ほか訳。

中日新聞 東京新聞
2022年3月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク