半世紀に及ぶ2人の「大河ドラマ」

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猪木と馬場

『猪木と馬場』

著者
斎藤 文彦 [著]
出版社
集英社
ジャンル
芸術・生活/体育・スポーツ
ISBN
9784087212143
発売日
2022/05/17
価格
1,012円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

半世紀に及ぶ2人の「大河ドラマ」

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 昭和のスポーツ界には「宿命のライバル」が何組も存在した。例えば野球の長嶋茂雄と王貞治。大相撲なら大鵬と柏戸。そしてプロレスではジャイアント馬場とアントニオ猪木だ。

 ただし馬場と猪木には、他と大きく異なる点があった。それがライバル期間の長さと業界に与えた影響だ。斎藤文彦『猪木と馬場』の読み所もそこにある。

 1960年(昭和35年)に同じ力道山門下として同時デビュー。昭和40年代、タッグチーム「BI(馬場・猪木)砲」が火を吹いた。やがて馬場が全日本プロレスを、猪木が新日本プロレスを創設。社長レスラー、またプロデューサーとして激しい興行戦争に突入する。

 そんな内幕を、長くプロレス記者を務めた著者は克明に描いていく。中には、76年(昭和51年)6月26日に行われた、猪木VSアリ「格闘技世界一決定戦」の顛末もある。しかも、あの試合が完全な「真剣勝負」だったことを明かすのだ。

 猪木が現役を退き、馬場が亡くなったのは平成10年代。その後、いくつもの団体の興亡があり、彼らの弟子たちの栄枯盛衰が続いてきた。半世紀に及ぶ2人の物語は、著者の言う通り「大河ドラマ」である。

「BI砲」以降、両雄はリング上で直接対決したことはない。“世紀の一戦”が形を変えて実現したのは、板垣恵介の漫画『グラップラー刃牙』シリーズだ。馬場と猪木をモデルとした、マウント斗羽と猪狩完至が激突している。興味があれば、ご一読を。

新潮社 週刊新潮
2022年7月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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