第29回松本清張賞を受賞したファンタジー小説。遊牧民アゴールには、草原に立てた額縁の中で物語を演じる芸術がある。「生き絵」と呼ばれ、その物語を作り演出を手掛ける「生き絵司」の女性、マーラが本作の主人公である。
突然の災厄がマーラたちを襲い、動いているものが見えなくなった。従来の演出では観客の心を動かすことができず、一度は生き絵をあきらめたマーラだが―。
コロナ禍で中止や延期が相次いだ文化芸術活動と、小説の世界が重なった。世界が激変しても、観客に伝わる表現を模索するマーラの行動に勇気づけられた。(文芸春秋・1650円)
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2022年7月9日 掲載
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