推理作家・柄刀一が語る エラリー・クイーンをオマージュした国名シリーズ最新作『或るアメリカ銃の謎』
エッセイ
『或るアメリカ銃の謎』
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紛れもなく現代『或るアメリカ銃の謎』著者新刊エッセイ 柄刀 一
[レビュアー] 柄刀一
表題作と「或るシャム双子の謎」の中編二作がおさまっています。タイトルにからめさせていただいているエラリー・クイーンの原典は、『アメリカ銃の謎』『シャム双子の謎』とも、一九三三年に米国で出版されています。今では“シャム双子”は不適切用語ともされ、クイーン作品のタイトルに関連する場合には許容されているといった具合で、時代の隔たりを嫌でも感じさせられます。
「或るシャム双子の謎」には、もちろん双生児は出てきますし、山火事が迫る閉鎖環境、そしてダイイングメッセージといったクイーン作品の舞台や道具立てを盛り込ませてもらっていますが、同時に、現代のテクノロジーの直接的な反映、量子論を巡るライトモチーフなども組み込まれ、紛れもなく現代でしか描けない事件となっています。
これは「或るアメリカ銃の謎」も同様で、現代のアメリカで根深い問題となっている二つの社会的背景が登場人物たちの運命を動かし、秘密めく謎を生み出しています。
時代が違えばお国柄も違う。日本では、誰もが拳銃を手にしているという状況は作りにくいです。そこで舞台は、駐日米国領事の私邸としました。外交特権のある領域です。こうした場所ゆえ、アメリカが直面している混迷の現状が侵入してきたともいえるでしょう。しかしセキュリティ万全なはずのそのような環境で、なぜ、犯人は姿を消せて暗躍でき、鮮血の銃弾を巡る事件は繰り返されるのか……?
収録作どちらの事件でも、主人公・南美希風(みなみみきかぜ)と相方のエリザベス・キッドリッジは、命の危機に直面しながら謎を乗り越えなければならなくなります。冒険譚は、どれだけの驚異に結びつくか……。
表題作では、一発の弾丸が掘り当てる真実までの距離を堪能していただきたく思います。未来で次の作家の誰かが発射するであろうアメリカ銃の銃声が響くまで。