長渕剛との出会いがきっかけに 作家デビューした映画宣伝会社社長が語った小説執筆までの道のり

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うえから京都

『うえから京都』

著者
篠 友子 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758414197
発売日
2022/07/15
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

業界では名の知れた、映画宣伝会社の女社長による初長編小説! 関西を舞台に日本を立て直してゆく

[文] 角川春樹事務所


篠友子

日本を立て直すために京阪神が手を結ぼうとするフィクションと現実が交錯するような痛快エンターテインメント『うえから京都』で作家デビューした篠友子さん。業界では名の知れた映画宣伝会社の女社長が、小説を書いた理由とは?

著者は映画業界でその名を知られた宣伝ウーマン

――篠さんは本作で作家デビューされましたが、それまでの歩みは映画とともにありました。邦画などの宣伝を行う会社(MUSA)を経営され、ご自身も宣伝プロデューサー。以前は映画専門のフリーペーパー「ステナイデ」の編集長もされています。

篠友子(以下、篠) 振り返ると笑い話みたいなんですが、もともとはぜんぜん違う仕事をしていたんです。27歳で起業し、マーケティングをずっとやっていましたが、40歳近くになった頃、ちょっとゆっくりしたいなと。仕事から離れたものの、子どもには「ママは仕事していないとだめだよ」と言われるし、実際、私もなんか物足りなくなって。それで美容系に興味があったのでエステサロンを作りました。そのサロンの広告媒体として作ったのが、フリーペーパー「ステナイデ」なんです。エステは事業としては大失敗するんですが(笑)、フリーペーパーはネーミングが面白いと新聞に取り上げられたりもして、媒体だけ残っていきました。

――確かに印象的な名前ですよね。どんなお考えからつけられたのでしょう?

 当時、ファッション誌などはすべて横文字のタイトルでした。でも私たちは日本人だし、日本語のほうが響くはずだと。それに、フリーペーパーって捨てられることがほとんどですが、本当は捨ててほしくない。そうした思いが言葉遊びのようになっています。

――そこから、どんな経緯で映画専門紙に?

 映画のコーナーは作らないのかと言われたことがきっかけで、48ページくらいの中のほんの一コーナーとして始まって。そうして何号か出しているうちに、表紙に使うビジュアルに困ったわけです。フリーペーパーだからお金は掛けられないし、著作権もあるからなんでも勝手に使えるわけじゃない。そこで、配給宣伝に関わる会社すべてにメールを打ちました。「表紙に使えるビジュアルがあったらご提供ください」と。すると、予想外にも全社から返信が来たんです。

――なんと! それにしても業界に一斉メールとは大胆ですね。

 怖いもの知らずなところがあるんです(笑)。そこからパブリシティ宣伝の依頼などがあれよあれよと言う間に増えていって、もう映画誌にしてしまえと。取材からライティング、撮影はもちろん、編集やデザインもすべて自分でやっていました。人を雇う余裕がなかったんです。当時は広告も入れておらず、収入も大したことなかったですね。それでも楽しみながら10年。ところがトラブルに巻き込まれ、楽しいだけでは続けられなかった。そこで、また一から出直そうと約10年前に今の会社を作りました。

――宣伝業務のメインに邦画を選ばれたのはなぜですか?

 洋画も好きですが、邦画のほうがより関係者の顔が見えるから好きなんです。それだけに、俳優さんや事務所などとも丁寧に人間関係を構築していかなければなりません。でも、それこそは私の得意なことでもあると思いました。

――角川春樹社長が監督された「みをつくし料理帖」の宣伝も担当されていますね。

 非常にありがたいお話でした。私にとっては初めての超大作でしたから、できるだけのことはやろうと。そうしたらコロナでしょ? やりたいことができないのは苦しかったですが、2020年10月には公開を迎えることができ、ほっとしました。

――『うえから京都』はその頃から書き始めたと伺いました。

 「みをつくし料理帖」の公開から数カ月後、コロナは終わりが見えず、私にも予想外の時間ができました。最初は神様がくれたお休みだくらいに思って、韓流ドラマを見まくったりとお気楽な気分だったのですが、長引けば長引くほど不安になってきて、思考はマイナスに向かうばかり。私にとって仕事をするということは人と関わること。それがなくなると、生きている意味すら見えなくなりそうでした。そんな日々にあって、ふと書いてみようかと思ったのですが、実は、そのきっかけを作ってくれたのは長渕剛さんなんです。

――あの長渕剛さんですか?

長渕剛さんとの出会いが小説執筆へ進ませた

 ええ。長渕さんの主演映画(「太陽の家」)の宣伝を担当したんですね。そのご縁で、新曲のリリースを書いてほしいとご連絡をいただいて。出来上がったものをお渡ししたら第一声で「いいねぇ」と。私の文章を褒めてくださったのは長渕さんが初めてだったので、ものすごく意識の中に残りました。と同時に、なんで褒めてくださったのかを自分なりに考えたら、向き合う気持ちが違うことに気付きました。映画のリリースは主観を入れず、事実関係を理路整然とまとめていくのが基本ですが、この時は、歌詞の世界に入り込んで、自由な思考で書いていたんです。そうかと。もしかしたら、自由度の高い文章なら書けるのかもしれないと。

――そして書き始めた。

 はい。でも、小説を書こうと思って始めたのではなく、脚本を書くつもりだったんです。映像化したいと思っていた物語でしたから。でも、書けなかった。脚本は行間を埋めないですよね、役者さんに委ねるから。それが自分の中で消化不良になってしまいました。セリフはばんばん出てくるんです。でも、このセリフでちゃんと伝えられているだろうかと考え込んでしまい……。だったら、その思いをきちんと文字にして落とし込み、原作として書いてみようと。

――作品は京都と大阪、兵庫が団結して京阪神同盟を組み、日本を変えていこうという内容です。ただ、その壮大なスケールに対して、発端にあるのは本来の都は京都であるという京都人のプライドであり、都を奪還したいという思いです。京都の立ち位置というのは、見方を変えるとこれほど面白いのかと実感しました。

 京都に9年ほど住んでいたんです。ですから、京都人の気質というのはリアルに肌で感じ取ってきました。上から目線とかプライドが高いとよく言われますが、それはどこから来るのかを考えたとき、やっぱり歴史なんですよね。いろいろ調べていくとその歴史が想像以上に面白くて、これは物語になるなと思っていました。

不思議なタイトルに込められた日本への思い

――『うえから京都』というタイトルもインパクトがあります。

 これはですね……。3年ほど前に、映画「翔んで埼玉」のPR番組を観ていて、「関西だったらうえから京都だよね」と、冗談のようにポロッと言ったことがあるんです。家族で「おもろいやん」と盛り上がったんですが、このタイトルが決まってから物語を作っていったという流れです(笑)。

――こちらは政治の世界が舞台だけに、ブラックユーモアもより刺さりました。

 コロナ禍を経験して、日本という国に対しての信頼がちょっと折れたというか。さまざまな政策が私たちの意図するものとは違う方向に進んでいるように思え、大丈夫なのか、この国はと。そういう思いも込めて物語を構築していきました。だからこそ、希望の要素を含めた、明るい作品にしたかった。嫌なことがあってもマイナスに考えたらそこで終わり。プラスに変えればいいんですから。

――主人公の坂本龍子はその象徴のようにも感じます。高知の県庁職員でありながら、政治の世界に知られた交渉人という設定ですが、この名前だけで物語への期待値も高まります。

 都を持って行かれた京都が奪還しに行くとはいえ、京都だけじゃ無理。じゃ、関西が組んだらどうなる? うん、面白いかも。だけど、京都が大阪や兵庫に声を掛けるというのはリアルじゃないし、誰か必要だなと考えた時、薩長同盟のことがふと浮かんで。私は高知出身だし、坂本龍馬さん大好きだし、いっそ龍馬さんみたいな人を出せばいいんじゃないかと。まんま坂本龍馬のパクリだねと思ってもらって大いに結構。だからこそ響くものもあると思っています。

――大阪の吉岡知事、東京の池永小百合知事という、実在の人物を彷彿とさせる名前もあり、その姿もどことなく実物に近い描写で。映像になったらと思うと、ワクワクします。

 宣言しておきます。挑戦します! これを本格的な映画にしたいと思っています。それが私の次の目標でもあると思っているので。

――「可能性がゼロでないなら考える」という言葉が作中に出てきますが、それは篠さんご自身の思いでもあるようですね。

 人生を振り返ってみると、ジェットコースターなんです(笑)。挫けそうになることも多々ありましたけど、私は「逃げない」というのを自分のポリシーとして決めているんです。だから、可能性がゼロでないならやってみようと。だめだったら引き返せばいい、別の道を行けばいいじゃないと。この本を書くときも同じでした。

――そして、一冊の本になりました。

 書き始めたときは出版していただけると決まっていたわけではないので、自分の中ではミラクルです。一番のミラクルは角川春樹社長に認めていただけたことです。作家大学という学校があるのならば、入学許可をいただいたという風に受け止めています。頭の中にはまだまだ映像があるので、それも本にできたらいいなと思っています。その時も、「おもしろい」という5つの文字だけを取りに行きたい。それ以外の評価は気にしません。映画も同じでいろいろ言いたいことはあっても、結局は面白いか面白くないかの二択なんです。だから、「おもしろかったけど……」でもいい。誰かの心に響くものが、総称として「おもしろい」というワードになる、そういうものを書いていきたいと思っています。

構成:石井美由貴 写真:島袋智子 協力:角川春樹事務所

角川春樹事務所 ランティエ
2022年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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