『高島太一を殺したい五人』
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極めつきの倒叙『高島太一を殺したい五人』著者新刊エッセイ 石持浅海
[レビュアー] 石持浅海
本格ミステリには、倒叙ものという分野がある。事件を犯人の側から描くというものだ。決して本流ではないけれど、昔から傑作が多く、馴染みのある分野だと思う。
実は最近、自分が倒叙向きの作家なのではないかと思うようになった。
別に倒叙ものを極めようと考えているわけではない。ではなぜ倒叙ものを書いているのか。新作の設定を練っているときに、どうしてごく自然に倒叙もののアイデアを思いつくのか。理由を考えてみたら、登場させる探偵の振る舞いに問題があるからではないかと思い当たった。
僕が生み出す探偵は、必ずしも勧善懲悪を重んじているわけではない。「謎さえ解ければ、それでいい」と考えている節があって、そのため僕の小説では、必ずしも犯人が逮捕されるわけではない。犯人を名指ししたら、後は放置。そのおかげで、犯人の狙いがまんまと当たって、幸せになったりする。つまり、きわめて犯人を大切にする物書きなのだ。
そんなへんてこな作家が、二十年も書き続けてきた。デビュー二十周年記念として、どのような作品を書けばいいのか。思いきって、登場人物全員が犯人という小説を書くことにした。けれど、それでは謎を解く人間がいなくなってしまう。だから、その全員に探偵役も務めさせることにした。
全員が犯人。
全員が探偵。
かなり短めの長編で、内容が濃密だから、一気に読んでしまえる作品に仕上がった。
面白く書けたと思う。とはいえ、本格ミステリ一筋で二十年やってきた到達点がこの作品かと思うと、微妙な気持ちになってしまうのも確かだ。
でも後悔はしていない。