スケールが違う樹木世界への案内

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森林に何が起きているのか

『森林に何が起きているのか』

著者
吉川賢 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
産業/農林業
ISBN
9784121027320
発売日
2022/12/20
価格
924円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

スケールが違う樹木世界への案内

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 近年、大規模な山火事が多い。水や消火剤を空中から撒く、周辺の木を伐って延焼を防ぐなどの対応がとられても、そう簡単に鎮火はしない。2019年にオーストラリアで起きた山火事で逃げ惑うコアラや、2020年の米国カリフォルニアでの森林火災が途方もない面積の森を焼き払ったのを見ると、単なる「火事」以上の危機であると感じる。

 吉川賢『森林に何が起きているのか』を手にとったきっかけはそういうことだが、この問題は単純ではない。燃えた地域で半数もコアラが死んだと聞けば心配になる。しかしコアラの食料であるユーカリは、定期的に起こる山火事によって生きる場所を確保する植物なのだという。落雷などで自然発生する火災は文字通り「自然なイベント」であり、火事に依存している動植物も存在する。防火を徹底したらユーカリは繁栄できず、コアラは飢える。

 では人間は何をすればいいか、というのがこの本のテーマなのだが、森林の適切な取り扱い方や活かし方を知るために、まずは時間的にも空間的にも人間とはまったくスケールの違う樹木の世界へと案内される。人間の考える損得を超えた森林独自の収支のようなものを感じる。アマゾンの森林、シベリアの森林、日本の森林、どこにもそれぞれの問題点があるが、それでもなお森林は人間にとって頼りがいのある存在だ。林学者の著者はそれを鞍馬天狗にたとえている。ちゃきちゃきの語り口が魅力的だ。

新潮社 週刊新潮
2023年2月16日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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