「ルールを軽やかに破る、かわいい不良に」宮田愛萌と千早茜が語った、小説に対する向き合い方

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

しろがねの葉

『しろがねの葉』

著者
千早 茜 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103341949
発売日
2022/09/29
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

きらきらし

『きらきらし』

著者
宮田 愛萌 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103549413
発売日
2023/02/28
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ルールを破るかわいい不良に

アイドルっぽくない渋い和歌

千早 最後の「つなぐ」の和歌は、この世の虚しさみたいな和歌ですよね。選んだ五首の中で一番アイドルっぽくない、渋い歌だと思いました。今回、小説を書くときは先に万葉集から和歌を選んだんですか。

宮田 先に和歌から選んで、お話を考えました。「つなぐ」が一番思い入れのある話です。読んでくださった方が万葉集を好きになってくれたらいいなと思って、登場人物の書いた日記の部分に、私が普段思っている万葉集の魅力を詰め込みました。万葉集は相聞歌(恋愛の情などを伝える歌)が多いけど、魅力はそこだけじゃないと主張したくて和歌も挽歌(人の死を悼む歌)を選びました。

千早 日本の和歌はぜんぶ恋愛、みたいに言われがちですもんね。和歌が好きだとずっと公言していたんですか?

宮田 はい、私のファンなら万葉集は読んでね、ぐらいの感じで(笑)。

千早 四五〇〇首ありますもんね。そこからピックアップするのですら大変。実は、私の名前は万葉集からの命名なんです。母親が「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」の歌が好きで。大人になってからどういう歌だったのか調べたら、結構曰くありげな一首で、なんでこれにしたんだろうと考えちゃいました。

宮田 本当ですね(笑)。

千早 「つなぐ」は最後まで書ききってない感じが良かったです。主人公がこの日記を読んで自分の道を見つけるとか、日記を読んだから万葉集が好きになったとかだと、すっきり終わるけどあんまりニュアンスが残らない。自転車を漕いで終わるという感じがすごい好きでしたね。

宮田 本を読んでいて結末が決まっちゃうと、そこから先の道が一本しか見えないと思うので、他の道があったかもしれないという読者の想像に委ねるのが和歌を読み解くのと似ているような気がして、そういう話がいいなと思っていました。

千早 私は好きな感覚でした。例えばエンタメの作家さんだとバシッと伏線を回収して終わらせることも多いし、それはカタルシスがあるけど、「つなぐ」のように読み手の自由が残っているセンスはとてもいいなと感じました。これからも小説を書いていこうと思いますか。

宮田 書けたらいいなと思っています。出版に至るかは別ですが、いつでも物語を書くのが好きなので、生涯続けていけたらいいなと。

千早 一番早く書けたのは「坂道の約束」なんですよね。これに私の作品が出てきて、「わあ」と思って(笑)。

宮田 はい。実際に私が図書館に行って手に取る感覚をそのまま入れました。中学生のときに、図書館で本を手に取っていたのを再現する感じで。

千早 宮田さん自身の感覚がいっぱい入った作品集なんですね。

宮田 そうですね。この本を読んでくださるのはファンの方も多いと思うので、みんなが喜ぶようなところがあるといいなと思いました。

ルールを超えて自由に書いてみる

千早 気になっていたんですが、五篇の主人公は全員若い女性ですよね。男性主人公を書いてみたいとかはないんですか?

宮田 男性と話したことがあまりないので、男の人の感覚がわからないんです。見ている世界が違うんだろうなと。書いてみたいけど、難しい。

千早 たとえば男性とか老人とか子供とかを書いて、そんな子供はいないと誰かに言われても、別にその人が全世界の子供を知っているわけではないので気にしなくていい。宮田さんはすごく文章が綺麗で、透明感もありますよね。きらきらしていて、澄んでいて。描写が瑞々しいので、悪い気持ちや人に言えないこと、こんなこと書いちゃうんだ!と読者を裏切るようなことをしても破綻しないと思います。あとは、自分とは離れた人間を主人公にして書いてもいいかも。おじいちゃんとか、自分より三〇センチ背が高い人ならどんな世界なのかとか、想像するのは楽しいですよ。

宮田 やってみたいです!

千早 『きらきらし』の中の少女の外見の描写など、空気感が伝わってきます。季節感、肌触りが書けていると感じました。さっきも言いましたが、基本的に文章はすごく綺麗なので、本当に長いものを書いた方がいい。主人公の性格とかを一行で書いてしまうのではなくて、描写を重ねて書くほうが、良さが出る気がします。

宮田 千早さんにそう言っていただけてすごく嬉しいです。

千早 でも今回は枚数がそんなに限られていたなんて、大変でしたね。今度は自由に書いてみてほしい、書かせてあげてほしい、本当に。自分のイメージの世界を、好きな枚数で書いてみたらいいと思います。

宮田 はい! 「あと何文字削らないといけない」とか、文字数のルールの中で、パズルのように削っていました(笑)。でも逆に最初にこれを経験したから、今後何かあっても大丈夫だなと思えます。

千早 タフ!(笑) 宮田さんならルールを軽やかに破る、かわいい不良になれるはず。今日はありがとうございました。

宮田 こちらこそ、本当にありがとうございました。

 ***

千早茜(チハヤ・アカネ)
1979年生まれ。2008年『魚神』で第21回小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。同作は2009年に第37回泉鏡花文学賞も受賞した。2013年『あとかた』で第20回島清恋愛文学賞を、2021年『透明な夜の香り』で第6回渡辺淳一文学賞を、2023年『しろがねの葉』で第168回直木賞を受賞した。他の小説作品に『男ともだち』『西洋菓子店プティ・フール』『クローゼット』『神様の暇つぶし』『さんかく』『ひきなみ』やクリープハイプの尾崎世界観との共著『犬も食わない』等。食にまつわるエッセイも好評で「わるい食べもの」シリーズ、新井見枝香との共著『胃が合うふたり』がある。

宮田愛萌(ミヤタ・マナモ)
1998年4月28日生まれ、東京都出身。2017年、けやき坂46追加メンバー募集オーディションに合格し、けやき坂46の二期生としてデビュー。2019年2月の日向坂46へのグループ改名後も精力的に活動を続ける。2022年9月にグループから卒業することを発表し、2023年1月いっぱいで活動を終了した。『きらきらし』が小説デビュー作となる。

撮影:新潮社写真部 スタイリスト:北川沙耶香 ヘアメイク:田村直子(GiGGLE)

新潮社 波
2023年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク