『ビジネスの兵法 : 孫子に学ぶ経営の神髄』
- 著者
- Brown, David, ビジネスジャーナリスト /月沢, 李歌子
- 出版社
- 早川書房
- ISBN
- 9784152102140
- 価格
- 2,750円(税込)
書籍情報:openBD
『ビジネスの兵法 孫子に学ぶ経営の神髄 (原題)The Art of Business Wars』デイヴィッド・ブラウン著(早川書房)
[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)
企業の勝敗分ける教え
中国春秋時代の武将、孫子の教えは現代においても確かな存在感を示している。その証左にビジネスの世界でも孫子に学ぼうという著作が数多く出版され多くの読者を得ている。本書も企業の戦いをテーマに人気ポッドキャストを運営するジャーナリストが、その勝敗を決めた要因を孫子の理論を援用しつつ深掘りして紹介するものである。
著者は兵法書『孫子』の各篇(へん)に準じて各章のテーマを設定し、ライバル企業同士の熾烈(しれつ)な競争において、企業がマーケットに対して打った戦略の成否と勝者と敗者を分けた理由をダイナミックな筆致で描く。そしてその意思決定や具体策において勝敗を決めた要因は、実際に孫子に学んだかどうかにかかわらず、孫子の教えに沿っていたか否かにあるのではと問いかける。
米ブロックバスターとNetflixの戦いの章では、孫子の「敵の一鍾(いっしょう)を食(は)むは、吾が二十鍾に当たる」の言葉の通り、Netflixが戦いの場を見極め巧妙な仕掛けで相手の巨大な顧客基盤を次第に奪い相手の力を弱め、DVD郵送レンタル、そしてついには動画配信の覇者となった経緯が語られる。またマイクロソフトのビル・ゲイツがインターネット時代の到来を見据え、潤沢な資金を使い強引とも言える手法で、ゲームチェンジャーとなりうる可能性を秘めた新興企業のネットスケープを叩(たた)きのめしたことについても、勝つためには長期的戦略、とりわけ兵站(へいたん)が重要との孫子の教訓を当てはめる。本書で紹介される27のエピソードそれぞれが孫子の教えを背景に物語が展開され興味深い。
iPhoneとブラックベリーの勝敗を分けた経営者の先見力の差、また任天堂トップのアメリカ市場制覇を見据えた眼力と指示の徹底力を描いた章はとりわけ読み応えがある。熟練のジャーナリストらしく、孫子を下敷きにして企業の攻防を描いたアイデアが秀逸で読者を引き込む魅力を持つ一冊である。月沢李歌子訳。