36歳からの中年期をどう生きる?ユング心理学が教えてくれる「不安」との立ち向かい方

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

自分を再生させるためのユング心理学入門

『自分を再生させるためのユング心理学入門』

著者
山根 久美子 [著]
出版社
日本実業出版社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/心理(学)
ISBN
9784534060198
発売日
2023/06/01
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

36歳からの中年期をどう生きる?ユング心理学が教えてくれる「不安」との立ち向かい方

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

臨床心理士/公認心理師/ユング派分析家である『自分を再生させるためのユング心理学入門』(山根久美子 著、日本実業出版社)の著者は、「現代は、自由である一方で不安な時代ということができるのかもしれない」と指摘しています。

自由は幅広い選択の可能性を保証しますが、選択の正しさを保証するものではありません。したがって私たちは、選んだ先にあるリスクや結果を自分自身で引き受ける必要があります。

自分の生き方は自分で決め、自分で見出していくしかないのです。つまり、こういった自由の持つ厳しさの前に、多くの人が不安を感じているということなのでしょう。

著者は、そういった不安な時代を生き抜いていくにあたり、ユング心理学が助けになると考えているそう。ユング心理学が「正しい答え」を教えてくれるわけではないけれど、“自分の行く道を照らしてくれる灯のような存在”だと考えているというのです。それは、自分の生き方に意味と方向性を与え、人生という自分ひとりで進むしかない孤独な道程に相応の安心感をもたらしてくれるのだと。

ユングは、心理臨床の実践において、セラピスト(治療者)とクライエント(被治療者)双方の個性を大切にしていた。ユングにとって心理療法とは、セラピストとクライエントの個性が出会う場であり、クライエントを癒す根幹はセラピストの個性にあるのであって、セラピストの依拠する治療法や理論ではなかった。

それゆえ、ユング派の心理療法は十人十色で、はっきりした固定的なやり方はない。セラピストとクライエントの個性が出会い、それぞれのクライエントの個性に合った形で展開していくことを大切にしている。

(「Prologue 自分らしく生き抜くためのユング心理学」より)

いわばユング心理学は、各人に寄り添う「やわらかい心理学」だということ。治すために積極的に働きかけたり、しっかり決まった手法のあるハードな心理学ではないわけです。なにより尊重されるべきは、クライエントの個性なのです。

きょうは第1章「失敗や負けは変化のチャンス」に目を向け、基本的な考え方を確認してみたいと思います。

「ユング心理学」というメガネでこころを見てみる

世の中には、「こころ」の仕組みを理解しようとする多くの心理学と、それらに基づく心理療法が存在します。当然のことながら、ユング心理学もそのなかのひとつ。

脳科学の発展に伴い、「こころ=脳」という議論も一時期さかんになされていたが、脳や科学だけで説明しきれない何かがあるということがわかってきている。こころはとても複雑で、見る人によってさまざまに形を変える不思議な存在なのである。

したがって、心理学は「こころを見るためのメガネのようなもの」である。メガネにはデザインや用途の違いはあっても良し悪しはない。大事なことは、その人に合うか合わないかである。(22〜23ページより)

私たちは、誰もが不安を抱えながら生きています。その不安とどう向き合うかは人によって、そのときどきに応じて常に変わっていくものですが、むしろそれでよいのだと著者はいいます。

ユング自身も、ある人のあるときにはフロイト(Sigmund Freud)の精神分析が、別の人のあるときにはアドラー(Alfred Adler)心理学が影響力を持つのであり、自分の心理学は万能ではないと述べているのだそうです。

私にとってユング心理学というメガネは、こころを見るうえで、今のところ自分に最もフィットしている。私は、このユング心理学のメガネがどんなかけ心地なのかを、この本を通じて皆さんにシェアできればいいなと思っている。

もしユング心理学のメガネをかけてみて、それが自分にぴったりくると感じるなら、それはすでにあなたの個性がそこに反映されているのだろう。(23ページより)

つまり、こうした考え方の根底にあるもの自体が、ユングの「やわらかさ」なのでしょう。(22ページより)

人を不安にする「人生の昼下がり」

誰もが不安を抱えているとはいえ、多くの人にとってそれは漠然としたものであるはず。ときどき表面化することはあるけれど、普段は奥底に置いておけるもので、距離をとったり、忘れたりしてもやり過ごせるレベルにあるわけです。ところが困ったことに、その不安がクリアで鮮明な形になって人生に立ち現れてくることもあるもの。

不安になることを「不安に襲われる」「不安に駆られる」などと表現しますが、それらに共通するのは、動詞の未然形に「れる」という受け身の助動詞がついていること。不安とは元来コントロールできないものであり、しかも私たちが起こすのではなく、不安のほうからこちらへ向かってくることを表しているわけです。

なおユング心理学の観点からいうと、多くの人にとって不安が顕在化してくるのは中年期ではないかと思われるのだそうです。

ユングは、中年期は36歳ごろから始まるのではないかと考え(Jung, CW8, para556)(25ページより)、この時期を人生の正午とも呼んだ。人の一生を一日に換算すると、中年期というのはちょうど一日の真ん中あたりになるためである。

「正午」は「午前」でも「午後」でもなく、これまで過ごしてきた「午前」とこれから始まる「午後」がある、中間的な時間。人生においても、これまで過ごしてきた人生の前半の時期を経て、人生の後半にさしかかろうという時期が「中年期」である。(25ページより)

この時期にさしかかると体力が落ちて体が不調をきたすなど、若さが失われていくのを実感し、老いや死が現実的なものとして感じられるようになります。仕事やプライベートでの転機を経験し、それまではみんなと横一線の競争だったものが、個人戦の様相を呈してくるかもしれません。

いわば人生の前半は、学校や会社などの社会集団にいかに適応し、自分を位置づけていくかという「集団の時期」。一方、仕事や家庭も一段落した後半は、個人としてどう生きるかがよりフォーカスされる「個人の時期」と考えることができるのです。

もちろん、時期はそれぞれの人によって異なることでしょう。しかしそれでも、人生において不安が顕在化するときはいつか必ず訪れるもの。著者はそう考えているのだといいます。

そして多くの場合、不安は人生の節目の時期にその姿を鮮明にするものでもあるようです。なぜなら節目の時期というものは、これまでうまくいっていたことが、うまくいかなくなるからこそ訪れるものだから。いいかえれば、失敗や負けを契機としていることがほとんどだということ。

なるほど、不安も人生の節目にすぎないと捉えてみれば、新たな見方ができるのかもしれません。(24ページより)

著者は、ユング心理学の持つ柔らかさには、不安な時代を生きる人々を支える可能性があると考えているそうです。

そこで本書では、著者自身の経験を織り交ぜつつ、ユング心理学を紐解いていこうとしているわけです。そうして解説されるユング心理学のなかからなんらかのヒントを見つけ出すことができれば、それはきっと、不安な時代を生きていくための指針になるに違いありません。

Source: 日本実業出版社

メディアジーン lifehacker
2023年6月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク