『名場面でわかる 刺さる小説の技術』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
<書評>『名場面でわかる 刺さる小説の技術』三宅香帆 著
[レビュアー] 渡辺祐真(文筆家)
◆「読む」から始める創作
飛ぶ鳥を落とす勢いの書評家である著者が、面白い小説とは何かを、実例と具体的なアドバイスによって解き明かした、創作指南本である。前半では名作を名作たらしめる名場面について概説し、後半では実際の名場面の例を挙げて解説を施すという構成になっている。本書の特徴はなんといっても書評家による創作指南という点だ。読みのプロだからこそ、いきなり創作術を説かない。まずは一文一文、一語一語を読み込み、そこに込められた言葉の作用を徹底的に分析し、作者の意図に迫ることから始めるのである。
その緻密な読解が、人は小説のどこに感動するのか、人間の行動や感情を描くとはいかなる行為なのかといった、創作論ひいては人間論にまで広がり、読者は自(おの)ずと審美眼を磨かれる。少なくとも名作か否かを見定める力は養われるはずだ。つまり、書き手を志す人にも、志していない人にも有益な本なのである。丁寧に読むことは複雑で難しいが、だからこそ最高にクリエイティブであり、創作の第一歩なのだと本書は教えてくれる。
(中央公論新社 1870円)
1994年生まれ。書評家、作家。『私たちの金曜日』の編者。
◆もう一冊
『それを読むたび思い出す』三宅香帆著(青土社)。自伝的エッセー集。