作家・武田泰淳の妻、百合子が富士山麓の山荘での日常を昭和39年から13年間にわたり記した現代日記文学の傑作『富士日記』。作者の没後30年の今年、新たな視点で名著のあせない魅力に迫る。
著者は山荘があった場所を訪ね、富士日記に頻繁に登場する「外川さん」や「スタンドのおじさん」の親族を探して取材し、日記の中の「当時」と地続きにある「現在」を丁寧に編み上げる。
ところどころ引用される富士日記の文章はみずみずしく、真空パックされていた半世紀前の時間がよみがえるよう。富士日記も手に取りたくなる一冊。(河出書房新社・1980円)
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2023年7月8日 掲載
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