『広島風土記』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
【気になる!】文庫『広島風土記』井伏鱒二著
[レビュアー] 産経新聞社
「山椒魚(さんしょううお)」「黒い雨」などで知られる小説家、井伏鱒二の文庫オリジナル作品集。
井伏は広島県加茂村(現・福山市)の生まれ。慣れ親しんだ「鞆(とも)ノ津」の釣り場、尾道で訪ねた志賀直哉の仮寓(かぐう)、瀬戸内の島々、母のことなど郷里とその周辺にまつわる回想や紀行文のほか、半生記、小説「かきつばた」が本書に収められている。
表題作の紀行文で「あの荒廃の趾(あと)はもう見たくなかった」と広島で爆心地を見ることなく、宿でひとり平和の鐘の音を聞いていた井伏。後年、「黒い雨」を書くことになる経緯や心境の変化などが回想記につづられており、興味深い。(中公文庫・990円)