<書評>『河原者のけもの道』桃山邑(ゆう) 著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

河原者のけもの道

『河原者のけもの道』

著者
桃山 邑 [著]
出版社
羽鳥書店
ジャンル
芸術・生活/演劇・映画
ISBN
9784904702918
発売日
2023/06/12
価格
2,420円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『河原者のけもの道』桃山邑(ゆう) 著

[レビュアー] 伊達政保(音楽評論家)

◆「無頼」の座長 最後の軌跡

 この本を手にした時、見たことのある装丁だと思ったが中村とうよう著『大衆音楽の真実』(ミュージック・マガジン)と気付き、本文を読んでその理由が分かったのだ。

 水族館劇場の座長(自身はサパティスタ解放戦線にちなんで副司令官と称している)桃山邑最後の著書となった。昨年三月にがんで余命半年を宣告されながら、五月から六月にかけての水族館劇場の公演「出雲阿國(いずものおくに)航海記」の臺本(だいほん)を書き演出、公演終了後、闘病のなか本書の題を決定し造本や内容構成を考え、インタビューによる自分史の語り下ろしや執筆活動を続け、なんと先の臺本に書き足した定本を作成、あとがきを書き終えてはいたが完成を見ることなく十月に亡くなってしまった。まさに命を削るような半年間の桃山邑の創作活動だった。遺(のこ)された原稿を編集し、音楽に関わるエッセイを加えて、今年五月の桃山追悼公演に合わせて出版されたのだ。

 本書ではあまり知られていなかった映画学校や藤田傳(でん)氏(後に劇団1980を結成)との関わりも語られていて驚かされた。収録された未完の絶筆「ぼくの作劇法」の中のメモに「菅孝行先生の云う『無頼の演劇』だ。」とあったが、演劇評論家の菅孝行氏は演劇を四つの範疇(はんちゅう)に分け、第三の範疇として、様々(さまざま)な意味で人々に「必需」とされる演劇、そこにはプロとアマチュアの区分はなく、鶴見俊輔の言う「限界芸術」であり、曲馬舘由来の水族館劇場とか野戦之月などの「無頼の演劇」はここに属するとしていたのだ。

 水族館劇場公演は野戰攻城と桃山によって名付けられている。前後三カ月、強固な足場で高さのある巨大テントの設営、最上部には数トンもの水がためられエンディングには大瀑布(ばくふ)として雪崩(なだれ)落ちる。題材の基本は現在と中世を往還する民衆史、桃山の本はそこに叛史(はんし)を紡ぎだす。そして公演終了後のバラシ。それらの全てを桃山は藝能(げいのう)としての芝居と位置付けていたのだ。駒込大観音、太子堂八幡神社、横浜寿町、花園神社、羽村宗禅寺という彼らの軌跡は桃山の遺志を継いで続いていく。

(羽鳥書店・2420円)

1958~2022年。水族館劇場座付作者。35年間、寺社境内で公演。

◆もう1冊

『朝倉喬司(きょうじ)芸能論集成 芸能の原郷 漂泊の幻郷』編集委員会編(現代書館)

中日新聞 東京新聞
2023年7月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク