古今東西の文学の大きなテーマ「出世と恋愛」は、日本の近代文学の中ではどう描かれてきたのか。文芸評論家がユーモラスかつ切れ味鋭い語り口で論じる。
立身出世を夢見て上京する明治の青年を描いた夏目漱石『三四郎』などの青春物でおなじみなのは、女性に恋心を告白できないで終わる男。有島武郎『或る女』などの恋愛物には、若くして死ぬヒロインがよく出てくる。
著者は男女を描いた小説にそんな〝黄金パターン〟を見いだし、時代状況や精神風土との関係を探っていく。文学作品を媒介にした、秀逸な近代日本社会論でもある。(講談社現代新書・1056円)
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2023年7月23日 掲載
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