『足利義満』森茂暁著(角川選書)

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足利義満

『足利義満』

著者
森, 茂暁, 1949-
出版社
KADOKAWA
ISBN
9784047037090
価格
2,530円(税込)

書籍情報:openBD

『足利義満』森茂暁著(角川選書)

[レビュアー] 金子拓(歴史学者・東京大教授)

幕政と内面 傑物の実像

 足利義満という名前から、まず何を思い浮かべるだろうか。彼が建てた鹿苑寺金閣(金閣寺)だろうか。評者の世代では、アニメ「一休さん」での将軍様を思い出す人もいるだろう。室町幕府三代目の将軍として、京都における武家政権の権力基盤を確固たるものとした傑物だ。

 著者は南北朝時代政治史の分野を長く牽引(けんいん)している代表的研究者であり、すでに義満の祖父足利尊氏やその弟直義、そしてこの兄弟と対峙(たいじ)した後醍醐天皇の評伝がある。いっぽう義満の子義教の時代の室町幕府を論じた著書もある。そのちょうどあいだの時代の象徴である義満をついに俎上(そじょう)に載せたとあれば、期待しないわけにはゆかない。

 義満については、1960年の臼井信義氏による評伝(吉川弘文館人物叢書)があり、90年には今谷明氏が『室町の王権』を刊行した。そこでの義満による「王権簒奪(さんだつ)」という学説はすこぶるセンセーショナルなもので、その後多くの批判を浴びたが、確実にこの時期の研究を活性化させた。本書がそこから約30年を経ているのも因縁めいている(この間小川剛生氏によるすぐれた評伝も発表されている)。

 本書では、義満や、彼の祖父尊氏・父義詮(よしあきら)だけでなく、彼を支えた管領の細川頼之・斯波義将(しばよしゆき)らの出した文書を徹底的に収集し(義満の文書は千点以上にのぼるという)、そこからわかることを帰納的に解き明かし、義満の政治のありようが明快に評されている。著者の本領が発揮された手堅さ、歴史学の王道と言うべき手法で著された義満評伝の決定版である。

 長年研究を続けてきたベテランらしい洞察も少なくない。義満を支えた頼之・義将の人物像、彼らと義満との関係についての指摘、神秘主義的な面と現実主義的な面が義満という人間に同居していることを矛盾とせずに描ききっていることなど、この分野の史料を集め、読みぬいているからこそ、強い説得力を持つのである。

読売新聞
2023年7月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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