『ひげよ、さらば 上・中・下』上野瞭著/町田尚子絵(理論社)

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『ひげよ、さらば 上・中・下』上野瞭著/町田尚子絵(理論社)

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

 このタイトルを見て、一九八四年度にNHKで放映されていた同名の人形劇を思い出す方もおられるだろう。本書が原作である。稀代(きだい)の「猫絵師」町田尚子さんの装丁画を得た新装版だ。

 帯にあるとおり「猫たちの叙事詩(バラード)」であり、個性の違う魅力的な猫たちが何匹も登場する。しかし、「おれ」という一人称で語り、内省的でハードボイルドな主人公ヨゴロウザのキャラクターに触れればすぐわかるように、本書は人間が猫のキャラをかぶったかのような「かぶりもの」動物小説だ。そして、よく練られた社会派サスペンス・ミステリーでもある。

 私は人形劇をラストまで観(み)た記憶がなく、今回初めて終盤までの怒濤(どとう)の展開を知って驚愕(きょうがく)した。児童文学の世界でも、本書は未(いま)だに極北に位置すると言われているという。峻厳(しゅんげん)で硬派な物語だからこそ、猫たちの肖像がいっそう愛(いと)おしい。

読売新聞
2023年7月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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