『南北朝正閏問題』千葉功著
[レビュアー] 産経新聞社
日本の南北朝時代において、南朝と北朝のどちらが正統か。前近代から議論になったこの「正閏(せいじゅん)問題」をめぐり、明治末に時の内閣を揺るがす大論争が起きた。そのきっかけは、国定教科書の記述。南朝正統論が支配的な世相にあって、南北朝が並立していたとする内容が盛り込まれたことだった。
まず民間の教育関係者が火をつけ、メディアが拡散。議会で政争の具と化し、世論は炎上。最終的に教科書改訂で政治決着が図られた。「国家介入による学問弾圧」という単純な構図でなく、介入を求めたのは専ら民間側だったという、現代に通じる問題も浮かび上がらせる。(筑摩選書・1760円)