『激安ニッポン(マガジンハウス新書)』
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「安くなった日本」で、どう幸せをつかむか?世界と向き合っていくうえで大切なこと
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『激安ニッポン』(谷本真由美 著、マガジンハウス新書)の著者は本書の冒頭で、日本が他の国とくらべてとても“安い国”になったと指摘しています。アニメや文学、映画など日本の文化に興味を持っている外国人も多いものの、彼らの母国にくらべて外食や不動産、サービスなど、すべてのものが日本は激安だということ。
私は以前国連の専門機関で働いていて、今はイギリスに住んでいます。今も北米や欧州の人たちと仕事をし、そうした国々の友人も多くいるので、「海外から見た日本の現状」を目の当たりにしています。
それは何かと言うと、海外と比べて、日本の物価や日本人の給料がいかに安いか、そして、海外の人たちが日本の安さに目をつけ、激安なものやサービスをどんどん買おうとしているということです。(「はじめに」より)
ある程度年齢が上の方であれば、こうした“現状”からバブルのころの日本を思い出すのではないでしょうか? なぜなら当時の日本人は台湾や韓国、東南アジアなど、もう少し余裕がある人なら北米や欧州に足を運んで「爆買い」をしていたからです。あのころ、そういう人たちはみな「安い、安い」と盛り上がっていました(私もその世代ですが、幸か不幸か“バブルの恩恵”のようなものを受けたことはありません)。
ところがそこから30年近い時が経ったいま、立場は逆になってしまったわけです。だから現在の日本は外国の人々、とくに先進国や途上国など“現在伸びている国”からみれば、いろいろな意味で「安い国」になってしまったということです。
にもかかわらず、日本人の多くにはその自覚があまりないと著者はいいます。簡単な話で、この失われた30年の間に、日本にはお金がない人がぐんと増えてしまったから。実際に海外に行く人も減ったため、外国との比較ができず、「日本の現状」を正しく理解できていないということです。
そこで本書では、日本がいかに安い国なのかをデータや事例を交えながら明らかにしているのです。非常に大切なことなので、その内容、すなわち“日本の現状”については実際にご確認いただきたいところ。
したがって、ここでは「では、これから日本人はどうしたらいいのか」についての著者の考えが明かされている第5章「『貧乏国』で幸せをつかむヒント」に焦点を当ててみたいと思います。
「英語力」がカギになる
日本が安い国になってしまったとはいえ、きちんとこの国の現状を見つめ、いまのうちから適切な行動をとれば、幸せをつかむことはできると著者は述べています。
日本は労働人口が減っており、経済格差は今後も拡大していく可能性が高いでしょう。しかしその一方で、海外には人口がどんどん増加している国もあります。そのため今後は、「海外向けにものやサービスを提供し、お金を稼ぐ」というビジネスモデルが盛んになっていくはず。
また、ロシアの戦争の影響もあるとはいえ、グローバル化は今後も進んでいくことでしょう。すると当然ながら、さまざまな国をまたがって行われる仕事は今後も増えていくことが予想されます。
そこで考えられるのは、国内の労働人口が3つの階層に分かれていくということだといいます。それぞれの階層と、そこに属する人たちの特徴を確認してみましょう。
第1階層:海外や多国籍化するプロジェクトを担当する層
・超高学歴で留学などの海外経験が豊富
・英語をはじめとする外国語を流暢に使うことができる
・海外を含めた労働市場で評価されやすい何らかの付加価値を持っている
第2階層:日本国内で付加価値が高い知識やスキルを提供する層
・国内で重宝される熟練技能や知識を持っている
・自営業や経営者
・地主
・医師や士業などの資格系職業
・国内で稼ぐので外国語は基本的に必要ない
第3階層:日本国内でお金を稼ぐ低賃金の層
・付加価値の高いスキルがないために低賃金
・ブラックな職場で働くサラリーマン、非正規やパート、日雇い(以上、185〜186ページより)
グローバル化を念頭に置いた場合、当然ながら第1階層の稼ぐ機会が今後もどんどん広がっていくことは確実。多国籍な仕事やプロジェクトはどんどん増えていくため、この層に属する人たちは世界中から引っ張りだこだということ。
しかも先進国はどこも高齢化していくところが多いので、スキルを持った若手が活躍する機会は増えていくはず。そして、その際に共通語となるのは「英語」です。英語はすでにグローバルなビジネスの標準語であり、学術や科学技術の世界も英語で研究発表をするのは当たり前の話。事実、世界的に評価される大学では授業はすべて英語で行われています。
こうした傾向は、今後、中国やインドが台頭してきても変わることはないだろうと著者は推測しています。したがって、第1階層の世界に入りたいのであれば、とにかく英語は“できて当たり前”だと考えるべきだといいます。(184ページより)
有望なのは「IT×製造業」
本書で明かされている「安い日本」の現状はショッキングですが、それでも外国に売ることができるサービスや商品があることに、日本人は気づいていないそう。そこで、そういったものをどんどんお金に変えていくべきだといいます。
日本人は控えめな人が多いのでマーケティングや営業が苦手で、しかも国内のことしか知らないため、「外国ではどういうものが受けてなにが売れるのか」ということを理解していないというのです。それは、日本だと日常生活でさまざまな国の人と接触しないこと、あるいは教育がドメスティックすぎるせいなのだとか。
たとえばまず日本人は日本の海外でのイメージに気がついていません。
特に中国では日本人というのは非常に生真面目で嘘をつかないので取引がやりやすいということで有名です。
なので、彼らは日本人と取引する際、相手が誠実なので安心して買うことができると考えているのです。
これが日本で中国人が日本の商品を爆買いする理由です。彼らは母国の人々を信用できないので日本人から買うのです。(194ページより)
ちなみに中国人だけではなく、北米や欧州でも「日本のものは安心できる」ということで有名だそう。つまり、日本の製品やサービスにはそういったイメージがあることを理解し、もっと多様なものやサービスを(英語力を発揮しながら)海外の人に売ればいいということ。
これは、ひとつの重要なヒントかもしれません。(198ページより)
日本が「安い国」になっているという実感を抱いている方は、決して少なくないでしょう。しかし本書で明かされている内容は、そうしたイメージをはるかに超えたものでもあります。そしてそれは「知っておかなければならないこと」でもあるので、本書の平易でわかりやすい解説をぜひとも活用していただきたいと思います。
Source: マガジンハウス新書