『巨匠たちの住宅』
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【聞きたい。】淵上正幸さん 『巨匠たちの住宅』
[文] 黒沢綾子
淵上正幸さん
■五感で感じるモダニズム
建築界には「建築設計は住宅に始まって住宅に終わる」という箴言(しんげん)があるらしい。「美術館やオフィスのように機能が明確な建築とは違い、規模こそ小さいが、住宅には多くの機能がひしめいている。一番身近だけど、人間の複雑な行動を受けとめ、人間を育む、容易ならざる器です」
現代の都市風景の礎を築いた20世紀モダニズムの建築家は、どんな住宅を設計したのか。本書では、ドイツの造形芸術学校「バウハウス」創立者のヴァルター・グロピウス、スイス出身でフランスを拠点としたル・コルビュジエ、メキシコのルイス・バラガンら巨匠が手掛けた24の住宅を主に紹介している。
建築ジャーナリストとして、取材のほかに海外建築ツアーの講師も務め、北はアイスランドから南はアルゼンチンまで年3、4回は旅をしてきた。現地で撮影した写真など膨大な資料を基に、建築誌で連載を執筆していたが、ここ数年、新型コロナウイルス禍で閉塞(へいそく)状況が続いたことから、加筆し単行本にまとめた。
建築解説書というより、実際に訪ね歩いた体験記なので読みやすい。「建築関係のプロから一般の方まで、広く情報を共有してもらえたら」と話す。
特に憧れる作品として挙げるのは、ドイツ出身のミース・ファン・デル・ローエによる「ファンズワース邸」(米国)と米国のフィリップ・ジョンソンの自邸「グラス・ハウス」(同)。いずれも全面ガラス張りですっきりした構成の住宅だ。
「建築は広義に解釈するとアートの一部。ただ、名画は美術展のために来日しても、名建築は来てくれない。自分が行かなきゃダメ」と笑う。紹介した住宅の中には一般見学可能なものも。「中に入って五感全てで感じられるのが、建築の面白さ。同じ建物でも朝、夕、夜で違うし、季節や天候によっても変わる。建築は深い」(青土社・2860円)
黒沢綾子
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【プロフィル】淵上正幸
ふちがみ・まさゆき 建築ジャーナリスト。神奈川県生まれ。東京外国語大卒。新建築社などを経て、建築編集オフィス「シネクティックス」主宰。平成30年、日本建築学会文化賞を受賞。主な著書に『ヨーロッパ建築案内』など。