『帝国ホテルと日本の近代 : 「ライト館」はいかにして生まれたか』
- 著者
- 永宮, 和, 1958-
- 出版社
- 原書房
- ISBN
- 9784562072941
- 価格
- 2,420円(税込)
書籍情報:openBD
『帝国ホテルと日本の近代』永宮和著
[レビュアー] 産経新聞社
■「ライト館」巡る逸話
帝国ホテル(現・帝国ホテル東京)は東京・日比谷公園に臨む一等地にある。開業は明治23年。欧化政策の下、主に外国人迎賓施設として、かの鹿鳴館の隣に建てられた国策ホテルだった。本書は、激動の「日本の近代」と軌を一にしてきた同ホテルの波乱に満ちた歩みをたどる。
ホテルの機能にはハード、ソフト両面があるが、本書が主軸とするのは建築というハード面。今からちょうど百年前の大正12年、近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトの設計により〝難産〟の末に生まれた2代目本館「ライト館」を巡る逸話が中心だ。
米国で美術商として活躍し、渋沢栄一ら財界重鎮に請われて帝国ホテル初の日本人支配人となった林愛作と、日本古美術収集家で林の友人だったライトは、東洋と西洋を結ぶ唯一無二のホテル建築を目指すが…。
「東洋の宝石」とたたえられたライト館は、大谷石や装飾タイルを用いた造形美が注目されがちだが、鉄筋コンクリート造りの大規模建築としても時代をリード。軟弱地盤ゆえに採用した「浮き基礎」も功を奏し、落成披露当日に起きた関東大震災にも耐えた話はよく知られている。
ライトの細か過ぎるこだわりは工費の大幅超過と工期遅延につながり、林支配人を窮地に陥れた。ただ、著者が指摘する通り、「黙々と働く職人気質と繊細な技術、欧米への憧憬(しょうけい)とコンプレックスがまだ強烈にあった」時代だからこそ実現した建築だろう。
二・二六事件、第二次世界大戦、戦後の連合国軍総司令部(GHQ)による接収などの試練を乗り越え、歴史を見続けた名建築は高度成長期の昭和42年、老朽化のため惜しくも解体された。一部は博物館明治村(愛知県犬山市)に移築、公開されている。
海外高級ホテルが相次いで参入し競争が激化する中、帝国ホテル東京はタワー館と本館の建て替えという大事業に挑む。4代目となる新本館は令和18年に完成予定だ。どんな伝説を生み出すだろうか。(原書房・2420円)
評・黒沢綾子(文化部)