<書評>『未明の砦(とりで)』太田愛 著
[レビュアー] 青木千恵(フリーライター・書評家)
◆働く若者の静かな怒り
自分は今、「人間」として扱われているのだろうか? 疑問を抱き、働く環境を変えようとした若者たちが、「共謀罪」の標的となってしまう物語である。
大手自動車メーカーの工場で働く矢上は、同僚の脇、秋山、泉原とともに、上司の玄羽に招かれて海沿いの家で夏休みを過ごす。<寮を出れば頼る者も住まいもない、自分の蓄えだけが命綱である若い非正規工員>であるのが、4人の共通点だった。戦後の労働法制の変遷をたどり、自分たちの“座標”を知った4人は、静かな怒りを胸に行動を起こす。
若者4人を軸に、工場の人々、グローバル企業の社長と幹部、政治家、キャリア官僚、刑事、記者ら、大勢の思いが絡み合う。声を上げた4人が追い詰められていく過程は緊迫感にあふれ、巧みな構成と人物同士のやりとりにより、大長編をぐいぐいと読ませる人間ドラマだ。
<今も昔も、なぜこの国ではこれほどに人の命が軽いのか>。多くの問いをはらんで、世の中のありようを浮き彫りにしている。優れた青春群像劇である。
(KADOKAWA・2860円)
テレビドラマの脚本で活躍後、2012年に小説家デビュー。
◆もう一冊
『人間使い捨て国家』明石順平著(角川新書)