<書評>『未明の砦(とりで)』太田愛 著

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未明の砦

『未明の砦』

著者
太田 愛 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041139806
発売日
2023/07/31
価格
2,860円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『未明の砦(とりで)』太田愛 著

[レビュアー] 青木千恵(フリーライター・書評家)

◆働く若者の静かな怒り

 自分は今、「人間」として扱われているのだろうか? 疑問を抱き、働く環境を変えようとした若者たちが、「共謀罪」の標的となってしまう物語である。

 大手自動車メーカーの工場で働く矢上は、同僚の脇、秋山、泉原とともに、上司の玄羽に招かれて海沿いの家で夏休みを過ごす。<寮を出れば頼る者も住まいもない、自分の蓄えだけが命綱である若い非正規工員>であるのが、4人の共通点だった。戦後の労働法制の変遷をたどり、自分たちの“座標”を知った4人は、静かな怒りを胸に行動を起こす。

 若者4人を軸に、工場の人々、グローバル企業の社長と幹部、政治家、キャリア官僚、刑事、記者ら、大勢の思いが絡み合う。声を上げた4人が追い詰められていく過程は緊迫感にあふれ、巧みな構成と人物同士のやりとりにより、大長編をぐいぐいと読ませる人間ドラマだ。

 <今も昔も、なぜこの国ではこれほどに人の命が軽いのか>。多くの問いをはらんで、世の中のありようを浮き彫りにしている。優れた青春群像劇である。

(KADOKAWA・2860円)

テレビドラマの脚本で活躍後、2012年に小説家デビュー。

◆もう一冊

『人間使い捨て国家』明石順平著(角川新書)

中日新聞 東京新聞
2023年9月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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