『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』酒井穣著(ディスカヴァー携書)

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』酒井穣著(ディスカヴァー携書)

[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)

離職に警鐘 両立の知恵

 「老々介護」「認認介護」、そして最近では「ヤングケアラー」など介護を取り巻く厳しい状況を表す言葉が次々と生まれてきた。本書のテーマの「ビジネスケアラー」とは「働きながら介護をする人」「仕事と介護を両立している人」を意味する。団塊の世代の全員が後期高齢者となる2025年を境に介護需要が爆発するといわれており、ビジネスケアラーも増加する見通しである。今後ますます深刻となる介護問題のキーワードとして注目されていくだろう。

 経産省は30年には家族介護者が833万人にのぼり、うちビジネスケアラーは318万人と予測する。すでに人手不足が叫ばれる中、企業の中核をなす働き盛りの世代のパフォーマンスが介護負担で低下し、さらに介護離職にまで追い込まれるとすると、本人や家族への影響のみならず企業や社会全体に甚大な影響が及びかねず、その損失は9兆円とも見込まれている。

 著者は自身も仕事と母親の介護の両立に30年以上悩み、その経験から介護関連のコンサルタント会社を起業した人物。介護に直面した働き手にとって何よりも重要なのは、一人や家族だけで抱え込まない持続可能な介護のプランニングである。地方自治体の窓口や地域包括支援センターに相談すれば想像以上に介護支援サービスがあることがわかる。入浴や排泄(はいせつ)など負荷の大きい身体介護や家事については、プロの支援サービスをうまく使ってチームで介護を行い、自分や家族の負担を減らすことが大切なポイントだという。また安易に介護離職に踏み切ると再就職の道は厳しく、経済的な困窮で身も心も疲れ果て虐待などにつながることもあり慎重に考えよと強調する。

 突然の介護に戸惑い悩むビジネスケアラーとその予備軍の人々に寄り添う著者の心がこもった一冊である。今後のビジネスケアラーの増加に備え企業の両立支援対応も促す。企業の人事担当者にもぜひ一読をおすすめしたい。

読売新聞
2023年9月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク