ウクライナ戦争、格差の拡大、学校教育…。思想家である著者が多様な題材を通して今の日本社会と日本人を論じる。
「学び」について記した文章では、知的成長を単なる「知識の量的増大」と考えがちな現代人を嘆く。いくら情報を脳に補充しても「入れ物」としての人間は変わらない。「学んだ後に学ぶ前とは別人になっている」ことこそが成長なのだと。基幹産業が農業から工業に変わるにつれ、教育を語る言葉も工学的になり、その弊害も出てきたとの見方は説得力がある。
「大人」や「成熟」の意味を考えさせる鋭利で温かな文章が並ぶ。(文芸春秋・1760円)
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2023年10月1日 掲載
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