『治験島』岡田秀文著

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治験島

『治験島』

著者
岡田秀文 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334915230
発売日
2023/06/21
価格
2,145円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『治験島』岡田秀文著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

 西ヶ島、通称「治験島」は関東某所に存在する離島だ。治験とは薬の効き目や安全性を検査する臨床試験のことで、情報漏れやバイオハザードを防ぐため、厳しくセキュリティ管理された状況下で行われる。本書は、閉ざされた治験島で十三日間の治験に被験者の一人として参加した主人公・坊咲貴之が巻き込まれる不可解な事件を描いた長編ミステリーである。

 どんな副作用があるかわからない薬の実験台となるというだけで、物語のスタートからしてひんやりと恐ろしい。治験管理室に届く脅迫状、男性医師の転落死、島内で女性の白骨死体発見。ついには被験者たちの身にもアクシデントが降りかかり、謎はじわじわ嵩(かさ)んでゆく。誰が、何の目的で? 治験島はけっして過疎の島ではなく、優秀な医療機関が集まる先端医療の拠点だ。事態を受けてすぐ地元警察も介入する。それでも疑心暗鬼の霧は濃くなるばかり。医療スタッフも治験者仲間も、どこまで気を許していいのだろう。

 手堅いクローズド・サークルものでありながら、意外に大きな「外部」とつながる真相がまた面白い。(光文社、2145円)

読売新聞
2023年10月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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