「空き家」となった実家を火葬待ちの「死体置き場」に…空き家問題からみる家族の物語

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カモナマイハウス

『カモナマイハウス』

著者
重松清 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784120056765
発売日
2023/07/20
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

住む者のいない実家問題 二軒の空き家をめぐる家族の再生

[レビュアー] 伊藤氏貴(明治大学文学部准教授、文芸評論家)

 五年ごとの総務省統計によれば、二〇一八年の日本の空き家数は約八百四十九万戸。今年の発表はまだのようだが、確実にこの数を上回るだろう。十年後には二千万戸を超えるという民間の試算もある。

 家が空き家になることは、家族の中心が消失するということであり、そこに様々な思いが交錯する。

 たとえば本書にあるように、住む者のいなくなった実家をどうするかをめぐって、お互い他に居を構える兄と妹が争う姿は、現在でこそ珍しくもないだろうが、かつてであれば、どちらかが帰郷しなければならなかった。それが「家を継ぐ」ということの意味だった。

 妹のように、就職後もしばらくそこで暮らし、思い出の残る家をなんとか残したいと思う者もいるが、有能なビジネスマンである兄のように、早く売り払いたい者もいる。高値で売れないとわかれば、気鋭の「空き家再生請負人」の提案に乗って、空き家を貸し出そうとする。ただ、その提案とは、火葬場がいっぱいで順番待ちの遺体をしばらくの間安置するための「もがりの家」として使用するというものだった。

 妹の夫も不動産業で、空き家メンテナンスに携わっていたが、生家が死体置き場になることで妻がどれほど傷つくかわかっていながら、どうすることもできずにいた。ビジネスとしてだけ考えるならば、間違っているとは言えないからだ。

 しかし仕事優先だった夫は、この件を機に、妻の気持ちと向き合うことになる。奇しくも妻には、もう一軒、心のよりどころとしていた空き家があったが、ここには売れない役者をしている一人息子も関わり、この一家は空き家を中心に関係を変化させていく。

 この家族の行方は二軒の空き家の再生にかかっていた。「家」は、空っぽのままでは家族の絆となりえないらしい。空き家の将来は、家族の将来でもある。

新潮社 週刊新潮
2023年11月2日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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