書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
人物造形深まるシリーズ作、究極のお家騒動、注目新人の受賞第一作
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
『広重ぶるう』で新田次郎文学賞を受賞した梶よう子は、芸道ものばかりでなく多くのシリーズものでも辣腕を発揮しているが、〈みとや・お瑛仕入帖〉シリーズも今回の『江戸の空、水面の風』(新潮文庫)で四冊目となる。
小間物屋「濱野屋」の子供たち―長太郎とお瑛は、永代橋の崩落事故により両親を亡くし、濱野屋が借金のカタに取られてしまい、絶望の淵に立たされる。二人は母親の幼馴染みの柚木の女将お加津に助けられこの店で働く。
二人の願いは、いつか濱野屋を再興すること。こうした設定の中にも、お瑛が両親の死が元になり橋を渡ることが出来なかったり、そのため自ら舟を漕いで移動するなど作中人物にも深い造形がなされている。
これまで『蠢く吉原』『結婚奉行』等、次々と力作を発表してきたが、作風が地味だったせいか、何故か実力相応の評価がされなかったのが辻井南青紀である。
今回の『主君押込』は、サブタイトルに“城なき殿の闘い”とあるように、史実ではあったが、これまで描かれることの無かった究極のお家騒動〈主君押込〉を描いた迫真の傑作である。
飯山藩の郡方・大竹五郎左衛門は、筆頭家老・田辺斎宮から発せられた元旦の一斉不出仕令に戸惑う。主君・本多重元と田辺との軋轢が限界に達したのだ。大竹ら重臣は、押込を宣言され仲間は惨殺される。さらに重元も幽閉されてしまう。
果たして勝機はあるのか。最後まで気の抜けぬ、まったく新しいお家騒動小説だ。
『写楽女』で第十四回角川春樹小説賞を受賞した森明日香の受賞第一作が本書『おくり絵師』(ハルキ文庫)である。
主人公おふゆは故郷の仙台で母親を亡くし天涯孤独の身となる。母の最期の言葉を頼りに江戸に行き、絵師歌川国藤の元、住み込みで修業の身となる。思うような絵が描けず、悩んでいたある日、亡くなった役者の姿を描いた〈死絵〉に出会い、魅せられていく。
幽玄な世界と、涙溢れるストーリーが交錯する稀有な一巻と言えよう。