混乱と恐怖が渦巻く傑作ホラー誕生の裏側に迫る! 『近畿地方のある場所について』背筋インタビュー

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近畿地方のある場所について

『近畿地方のある場所について』

著者
背筋 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784047375840
発売日
2023/08/30
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

混乱と恐怖が渦巻く傑作ホラー誕生の裏側に迫る! 『近畿地方のある場所について』背筋インタビュー

[文] カドブン

取材・文:澤井 一

「情報をお持ちの方はご連絡ください」
そんな書き出しで始まるホラー小説『近畿地方のある場所について』。
物語は、一見何のつながりもないかに思える奇怪な情報の数々と、それらに思わぬ共通点を見出すうちに、消息不明となった新人編集者と著者の過去のやりとりによって進んでいく。架空の出来事をドキュメンタリーであるかのように見せる“モキュメンタリー作品”である点も本書の大きな特徴だ。
本作を執筆した背筋さんに、作品が生まれたきっかけを伺った。

■はじめは友人を楽しませるための物語だった

「元々は友達を楽しませるために書いた短編だったんです。それが好評だったので“続きを書いてみよう”ということに。ドキュメンタリー風の生々しい作品にしたかったので、雑誌記事やネット書き込み、手紙、インタビューの文字起こしなどを羅列していく形式にしました。10年後、20年後に図書館の奥からこの本を見つけた人が“これって本当にあったこと?”と勘違いするような、得体の知れない薄気味悪さを感じてもらえたらうれしいです。巻末の袋とじ付録には、ビジュアル化していただいた資料やイメージ画像などを掲載。ウェブ連載が書籍になったことで、リアルな質量を持った“呪物感”が出た気がします」

本書は、ウェブ小説投稿サイト「カクヨム」で1月下旬に投稿がスタートし、3月にはSNS上で話題に。その後8月下旬に書籍化された。

「SNSでバズったときには、読んでもらえているうれしさと戸惑いが半々でした。でも、読者さんたちがリアルタイムで最新話を考察してくれたり、コメント機能で広めてくださったりしたのは嬉しかったですね。私のSNSアカウントで、作品にまつわる補足情報を流したりもしました。ただし、結末にいたる流れは早い段階で決めていました。特別なメッセージを織り込むつもりはなかったのですが、無意識のうちに“読者の方に怪談への向き合いかたを問う”ような一面のある内容に。書籍化にあたっては、せっかくなので大量の加筆も行いました。物語に深みを加えるためのエピソードや、重要なシーンを補完するような描写を書き足しました」

■霊感はないが、ある実体験が執筆の原点に

「これって、なんだか不思議じゃないですか?」。
作中、タイプの異なる怪事件が、違う時期に近畿地方の同じ一帯で発生。だがどの事件も「山」というキーワードが共通しており、主人公たちは点と点を繋ぐように事件を辿っていく。

「作中に登場する様々な要素は、どこかで見聞きしたことがあるような怪事件や怪談、伝承、都市伝説などがモチーフです。ぼんやりとした記憶の網に引っかかるようなボールの投げ方をしたので、それが読者にとってのフックになれば。執筆は、書きたい場面のイメージが先にあって、後から有名なエピソードを紐づけてアレンジしていくというやり方で。表現上の“怖さ”に関しては、細部の描写に漂う現実味がリアルな怖さにつながるだろうという狙いで、端折ってもいいような文言や話の運びに必要のない要素をそのまま書くことを意識しました。」

今作を手掛ける以前、背筋さんはある奇怪な光景を目にしたという。そのときの恐怖感が作品の世界観に影響しているのだそう。

「以前大阪に住んでいた私は、友人と一緒に山奥のダムに行ったんです。周囲を散策すると古めかしい神社がありました。遠くから鳥居の方に目を向けると、そこにはひとりの男性が。『管理人さんかな?』とも思いながら様子を見ていると、男性は腰を90度に曲げるお辞儀をカクカクと何度も繰り返してその場をあとに。不自然な行動に、友達と『あれは一体何だったんだろう』という話になったんですが、このときの心のザワつきが、本書に登場する“山、ダム、鳥居”といったセットアップの原点になっています。ちなみにあとから知ったのですが、ダムのそばには水神を祀った神社が設けられていることが多く、身投げする前になぜか神様にあいさつをしに来る人が多いのだそうです。霊感がない私としては、こういう話の方が怖いですね」

■ひとりのホラーファンとして、小説ならではのスタイルを

2000年代にインターネットが普及する中で、誰が書いたのか分からない怖い話が掲示板で話題に。オチのない展開や素人っぽい文体が「逆にリアル」だと話題になり、後の実話怪談ブームにもつながった。背筋さんはそれらの影響を受けながらも、今作ではあえて作品の締めくくりにこだわったという。

「ネットの、いわゆる“オカルトスレ”のような場所が大好きで。誰もが納得できるような結末が用意されていないからこそ、みんなで楽しめた面はあると思うんです。でも小説の場合は“創作”であることが前提だからこそ、“オチ”が必要だろうと考えて、“これしかないだろう”というラストを書きました。結末については、ひとりのホラーファンとして、大好きなホラーというジャンルへのリスペクトを表したつもりです」

夜が訪れる時間が早まり、寒さが忍び寄る秋の夜長。ぜひこの季節に、背筋さんが生み出した“身近な恐怖”に触れてみてほしい。

また、2023年11月6日に発売される雑誌『ダ・ヴィンチ』12月号では、「なんでもランキング」という企画にて背筋さんおすすめのホラーマンガ10冊を紹介。
古今東西のホラー作品に触れてきた背筋さんがおすすめする本は、「霊的な怖さ」と「人間の怖さ」どちらも味わえる読み応えのある物語ばかり。こちらもぜひチェックを!

■プロフィール

背筋
2023年1~4月にかけて、ウェブ小説投稿サイト「カクヨム」に投稿した『近畿地方のある場所について』で小説家としてのキャリアをスタート。SNSでその存在が話題になり、ホラーファンの間で知られる存在に。現在は小説第2弾を準備中。

KADOKAWA カドブン
2023年11月03日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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