『近畿地方のある場所について』
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ネットで1400万ビューのホラー小説を文体とスタイルで絶妙にパッケージ化
[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)
怖いもの見たさを刺激するという点では、史上最高クラスかもしれない。“近畿地方のある場所”なるタイトルといい、それが作中ではつねに●●●●●と表記されていることといい、袋綴じの巻末カラーページ(取材資料)といい、帯に1行だけ引用された“見つけてくださってありがとうございます。”という決め台詞(?)といい、さらにはカバー写真から著者名(背筋)に至るまで、最大の効果をあげるべく完璧に計算されている。
もともとは、小説投稿サイト「カクヨム」に掲載されていたネット小説というか、「近畿地方のある場所にまつわる怪談を集めるうちに、恐ろしい事実が浮かび上がってきました」という体裁のモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)。
「お山にきませんか。かきもあります。」と執拗にくりかえすアダルトサイトのコメント欄、奈良県の8歳の少女が行方不明になった事件、●●●●●について調べていた編集者の失踪、林間学校での集団ヒステリー事件、大きな口を開けて待つ男、ジャンプする女、謎のシール……。
怖すぎるという評判が評判を呼んでカクヨム版は1400万ビューを突破、書籍版も即重版した。ネットに最適化されたホラーだけに、紙だとやや読みにくいページもあるが、さまざまな文体とスタイルを駆使して捏造された断片が少しずつ全体像を結びはじめるあたりはなかなかスリリング。映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』やそこから派生した『ブレア・ウィッチ・プロジェクト完全調書』、実話ホラーに金字塔を打ち立てた小野不由美『残穢』などの系譜とネット怪談の系譜を融合させ、絶妙にパッケージした感じ。デザインは横山券露央(ビーワークス)。カバーをはずすと、表紙に本文の各所から抜粋された文章が縦横いろいろに印刷されているので、それをじっくり眺めているだけでも背筋がぞわぞわする感覚が味わえる。