繋がる瞬間

エッセイ

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アンと幸福

『アンと幸福』

著者
坂木司 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334100933
発売日
2023/10/25
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

繋がる瞬間

[レビュアー] 坂木司(作家)

 好きなものの側にいると、いつかなんとなく近づけることがある。そのことを近年、ものすごく実感している。

 私の好きなものは、おいしいもの。デパ地下。それから本に関わること全般。おいしいものとデパ地下に関しては、身近で好きなものといったところ。読書傾向は「なんでもあり」だけど、中でも民俗学系の本には目がない。ちなみに民俗学系のあれこれは、最初はそれと知らずに読んでいた『三つ目がとおる』や伝奇ミステリ、北森鴻(きたもりこう)作品や『宗像教授伝奇考』などがその素地を作ってくれた。

 これまでの人生で、それらはただ受け手として楽しむだけのものだった。けれどおいしいものとデパ地下を組み合わせて小説に出したあたりから、風向きが変わった。和菓子の職人さんと出会ったり、デパートの人にインタビューができたりと、「好き」への道すじというか、「好き」周りの情報が得やすくなってきたのだ。

 そして最近、一番嬉しかったのは『アンと愛情』が文庫化したおり、解説を古代の甘味を研究されている前川佳代(まえかわかよ)先生にお書きいただけたことだ。

 前川先生のお名前には、『和菓子のアン』の資料として読んでいた『食の文化フォーラム35 甘みの文化』という本の中で五年くらい前に出会っていた。古代の甘味であるあまづらについての研究が興味深かった。その後ネット上で、偶然奈良女子大の歴史食文化に関する論文にたどり着き、そこに同じ名前を見つけて驚いた。ああ、この方に解説を書いてもらえたら。そう思ってご依頼させてもらったところ、なんとご快諾いただけた。「好き」が繋がった瞬間だった。

 ただ幸運なだけかもしれない。けれどやはり好きなものの側にいたい。新刊である『アンと幸福』の中にも、同じような瞬間をいくつか描いた。いつか、あなたの「好き」もどこかで繋がりますように。

 ***

坂木司(さかき・つかさ)
1969年、東京都生まれ。2002年、『青空の卵』でデビュー。近著は『楽園ジューシー』『ショートケーキ。』など。

光文社 小説宝石
2023年11・12月合併号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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