『男性の性暴力被害』
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ジャニー(ズ)がわかる ジェンダーまでわかる
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
いやこりゃ、エラいときにエラいもんが……。ジャニー(ズ)=J騒動のさなか、『男性の性暴力被害』なる新書が登場です。
とはいえ、スキャンダル商売を当て込んだ粗製濫造の書ではまったくなく、10月中旬発売というタイミングは、どうやら偶然。著者の宮崎浩一と西岡真由美は、性暴力の研究者と被害者対応の実務家ゆえ、中身はきわめてまっとうで、版元がつける帯の惹句にさえJ方面への言及はない。
もちろん、読む側としてはどうしたって、あの顔この顔を脳裏に浮かべつつページを繰るわけですが、そうするとまず見えてくるのは、大炎上のハレーションに隠れたJ問題の深さ広さ。性暴力という一次加害と、その放置という二次加害が、起きて、続いて、見過ごされてきたメカニズムが解き明かされると、奇矯な個人による奇矯なギョーカイでの奇矯な事件ではないことまでがわかって怖くなる。
この国でも少なくない数の男(政府の調査でも100人に1人、研究者によっては2~3割!)が性暴力に遭う一方、その被害が自覚され発覚し、救済されることは多くない。その根幹には男性優位や男らしさ信仰、同性愛嫌悪その他いろいろの迷妄が――。
そう、男の性被害という一見、特異な切り口から覗くのは、男だ女だに縛られ、人としてどうかを考えないという普遍的な課題。実はこの本、喰わず嫌いのアナタでさえジェンダーをめぐるあれこれが得心できる極上の入門書でもあります。