『君が手にするはずだった黄金について』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『君が手にするはずだった黄金について』刊行記念対談・働きたくない僕らのサバイバル人生論
[文] 新潮社
「働きたくない」という気持ちを突き詰めていった結果、現在の職業に辿り着いたという作家の小川哲さんと芸人のカズレーザーさん。
小川さんは2015年に作家としてデビュー。わずか7年で直木賞を受賞し、SFから歴史、ミステリ作品と様々なジャンルで高く評価される。カズレーザーさんは2012年に安藤なつさんと「メイプル超合金」を結成し、2015年にM-1グランプリ決勝進出で注目を集め、数多くの番組に出演している。
作家と芸人、まったく違う世界で独自の道を見出し、活躍している二人が、求められている状況に感謝をしつつ語った“理想とする人生”とは?(前編・後編の後編)
(以下は、作家・小川哲さんが、自身と同姓同名の「僕」を主人公に、怪しげな人物たちと遭遇する連作短篇集『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社)の刊行を記念した対談を一部抜粋・編集したものです)
■僕らが思い描く理想の人生
カズ 小川さんは今後さらに作品がヒットして、仮に一生働かなくても生きていけるようになったとしたら、どうしますか?
小川 どうだろうな……。全く想像つかないです。
カズ 実は僕、働かなくてもよくなったら自分がどう生きていくか、分かった気がするんです。
小川 え、どう生きるんですか?
カズ 昔の経験でお金がなくても暮らす術は知っているから、最低限の貯えがあれば食べてはいけます。だからとりあえず、やりたかったことを全部やってみたい。
小川 やりたいことって……?
カズ まずはゲームです。このところ、『ARMORED CORE』をずっとやっています。
小川 ああ、新作の「VI」が出ましたね。
カズ 十一年前に「V」、十年前にその続編の「VERDICT DAY」が出ましたが、当時はまだ芸人になったばかりで、「いまゲームをやり始めたらプロにはなれない」と思って手を出さなかったんです。
小川 じゃあ、「VI」をプレイできるのは相当うれしいんじゃないですか?
カズ はい。ありがたいことにいまは食べていけるようになって、でもゲームをする時間と最低限のお金さえあれば充分に幸せなので、「あれ、これ以上なんのために働いているんだろう」と思いながら日々マシンガンを撃ちまくっています(笑)。
小川 ゲームは飽きたら新しいソフトを買えばいいだけですし、ずっとやり続けられそうですね。そう考えると、僕も働かなくてよくなったらゲームをしてる可能性が高いかな。
カズ 満足するものって、意外と手近なところにあるものなんですよね。
小川 さきほど「なんのために働いてるんだろう」とおっしゃいましたが、僕は小説を書いていると、「こんなことでお金をもらっていいのかな」と思うことがあるんです。
カズ 小川さんは結果を出されているじゃないですか。それに、そう思うのは別に悪いことではないんじゃないですか?
小川 ……そうですね。たしかに必死になってようやく評価されるより、「これでいいのかな」と思いながらも商売として成立するくらいのほうが、向いているということなのかもしれませんね。
カズ がむしゃらに必死になれる格好良さもあると思うんですけど、小川さんくらいのテンションでできる仕事のほうが、自分と噛み合っているってことなんでしょうね。