「人生において、才能のあるなしってあまり関係ない」カズレーザーが語った承認欲求との向き合い方

対談・鼎談

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君が手にするはずだった黄金について

『君が手にするはずだった黄金について』

著者
小川 哲 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103553113
発売日
2023/10/18
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『君が手にするはずだった黄金について』刊行記念対談・才能なんて、ないほうがいい

[文] 新潮社


読書好きで知られるカズレーザーさん

 自身と同姓同名の小説家を主人公に、“承認欲求のなれの果て”を描いた作家・小川哲さんの最新作『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社)が刊行された。

 青山の占い師、80億円を動かすトレーダー、ロレックス・デイトナを巻く漫画家など、成功と承認を渇望する人々を描いた本作に注目したのは、読書好きで知られるカズレーザーさんだ。

 作家、そして芸人のお二人は、自分自身の成功体験や他者からの評価が問われる立場にあるが、「才能のあるなし」や「承認欲求」にどう向き合っているのか?

『君が手にするはずだった黄金について』の刊行を機に対談したお二人が、小説のテーマを取り上げながら、満たされない気持ちや人生の価値観を語り合った。

 ***

カズ 最新作『君が手にするはずだった黄金について』(以下『黄金』)は、小説家〈小川哲〉が主人公の私小説風連作短篇集ということですが、個人的には「三月十日」が特にお気に入りでした。

小川 収録順でいえば二篇目ですが、初出の「小説新潮」には一番初めに掲載されました。二〇一一年、東日本大震災が起こる“前日”の記憶を巡る物語です。

カズ 意外にも、いままで読んだことのない切り口でした。三月十日まで、僕らはごく普通の「なんでもない一日」を過ごしていた。改めてそこに気づかされました。

小川 ずっと書きたかったテーマなので、嬉しいです。エッセイにしようとしたこともあるんですが、途中で「これは小説にするべきだな」と思って短篇として執筆しました。ちなみにカズさんはあの年の三月十日、何をしていたか覚えていらっしゃいますか?

カズ ぼんやりとは。震災が発生したとき、僕は自宅にいたのですが、ネタを書いていたわけでもなく、ぼーっと過ごしていました。そこから逆算すると、前日の三月十日くらいまでライブをしていて、それがひと段落した頃だったと思うんです。

小川 当時はよくライブに出ていらしたんですか?

カズ はい。新宿あたりのライブハウスでネタをやることが多かったです。たいして仕事もなく、バイトも全然してなかったから、少なくとも生活圏の新宿界隈からは出ていないはずです。

小川 意外とみんな覚えているものなんですよね。

カズ ところで僕、『黄金』を読んでひとこと言いたいことがあるんです。

小川 え、なんでしょう……?

カズ 小川さん、猫舌の人間は信用してもいいんじゃないですか?

小川 あはは。たしかに「プロローグ」で、美梨の父親が主人公に〈何があっても、電話口で怒鳴る人間と、猫舌の人間は信用してはいけない〉と言うシーンがありますけど。

カズ 僕自身が猫舌なもので、後半部分に反論したかったんです。

小川 僕は小さいころ、父親に「猫舌は先天的なものではない。熱い物を飲み食いできるかどうかはテクニックの問題だ」と言われて育ったんです。でも現実で猫舌の人を信用していないわけではありませんよ(笑)。

新潮社 波
2023年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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