『経済学レシピ』
- 著者
- ハジュン・チャン [著]/黒輪 篤嗣 [訳]
- 出版社
- 東洋経済新報社
- ジャンル
- 社会科学/経済・財政・統計
- ISBN
- 9784492315545
- 発売日
- 2023/11/22
- 価格
- 2,420円(税込)
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経済にも適切な調理法が必要だ。気鋭の学者による経済学入門書
[レビュアー] 田中秀臣(上武大学教授)
バナナ、オクラ、麺、鶏肉など代表的な食材はもちろん、どんぐりやコオロギなど食べる人を選ぶものまで、幅広い「食」の話題を通じて、今日の経済問題について鋭い考察を展開する実にユニークな著作だ。一般の人たちが経済を学ぶ最初の一口としては絶妙な味付けになっている。
さらに重要なことは世界の食事情がわかることだ。「胃袋」をつかむことは、恋愛だけでなく、これからの経済学の基本かもしれない。そして料理名人な著者が生み出した今晩のおかずの参考になるレシピ的なものまである。一冊で何度もおいしい。
著者はイギリスで学び、現在もロンドン大学で教えている韓国出身の経済学者だ。韓国出身なのでキムチやプルコギなどさまざまな食材に入っているにんにくは、まさにソウルフードの核心である。ところが80年代に留学のために来たイギリスは、料理の最貧国だった。ともかくまずい。にんにくなど多様な食材はどこにもない。イギリスは食については保守的で、いわば海外のさまざまな食について鎖国状態だった。
だが、イギリスはその後、急速に名誉を挽回する。料理革命が起きたのだ。それは移民のもちこんだ食文化に影響されたためだ。つまりは貿易の自由化や人間の移動の自由が、イギリスに料理革命をもたらしたのだ。いまでは世界でも最先端のグルメ大国である。
では、経済の自由化がベストなのか。そんなことはない、というのが本書の一貫したメッセージだ。食材が人類に幸福をもたらすためには適切な調理法が必要だ。時にはどう育て、いかに収穫するかまで周到に考えなければいけない。経済もそれとまったく同じである。経済をうまく機能させるには、単に効率性だけを追求してはダメだ。人々のニーズとそれを実現する能力をいかに社会的に構築するか。実は最も扱うに難しい食材は経済だと教えてくれる。