『最果ての泥徒(ゴーレム)』高丘哲次著

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最果ての泥徒

『最果ての泥徒』

著者
高丘 哲次 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103532125
発売日
2023/09/29
価格
2,310円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『最果ての泥徒(ゴーレム)』高丘哲次著

[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)

父の死・家宝追う2人旅

 2019年に日本ファンタジーノベル大賞を受賞してデビューした作家の3年半ぶりの2作目。待った甲斐(かい)があった。いやむしろ、この2作目を書くにはこれだけの時間が必要だったのだと思わせるだけの、ボリュームと濃密さ。

 時は19世紀末、ところは東欧の架空の国、レンカフ自由都市。強大な帝国に囲まれたこの小さな国は、泥徒(ゴーレム)の製造で名を馳(は)せていた。

 主人公はその泥徒作りの名門、カロニムス家の一人娘マヤ。けれど、才能に溢(あふ)れ、やがて家名を背負って立つ気概に溢れた若きマヤの人生は一つの事件で全く違うものとなってしまう。父親が殺されたのだ。胸を切り開かれた無残な死体で発見された最愛の父、そして家宝である「原初の礎版(ポドスタベク)」のうちの3枚と共に姿を消した3人の徒弟たち。マヤは自らが作った泥徒のスタルィと共に、世界を渡り歩き、生涯を賭けて謎を解く事となった。

 マヤの人生にも増して大きなうねりを見せるのがこの時代、そして世界だ。露国と日本の開戦、その露国も革命によって倒され、世界は否応(いやおう)なく分断され、戦渦に巻き込まれていく。

 日露戦争という実在の歴史を舞台にしながら、そこに泥徒という一つのIFを組み込むことで、また違う世界線を描き出してみせる。マヤの作ったスタルィが礎版を組み込まれ、意志を持ち、自らの言葉で語り始めるように、物語自体が生き生きと動き出す。産業革命とカバラの神秘思想が見事に絡み合うさまは、魔法のようだ。

 けれどそれ以上に印象的なのは、マヤとスタルィ、2人の生き方だ。真面目で真っ直(す)ぐ、どんなに傷つき、歴史に翻弄(ほんろう)されても、人を信じ、血と泥にまみれながらも正しい道を選ぼうとするマヤ。そのマヤを支え、時に叱りながら最後まで共に歩むスタルィ。2人の旅の行方がどうなるのか。

 圧巻のスケール感と読後感、壮大な歴史改変ファンタジーでありSFだった。(新潮社、2310円)

読売新聞
2023年12月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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