『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』ガブリエル・ゼヴィン著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー

『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』

著者
ガブリエル・ゼヴィン [著]/池田 真紀子 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784152102737
発売日
2023/10/06
価格
2,420円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』ガブリエル・ゼヴィン著

[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)

ゲーム共作 友情に亀裂

 学生時代に寝食を忘れて何かに打ち込んだ人、世界を変えてみたいと思った人、同性異性問わず同じ言葉で話せる親友に出会った人、好きなことやものを仕事にしたいと思った人におすすめしたい一冊。おそらく、これを読んでくださっている全員ではないかと。

 裕福な家庭に生まれた少女セイディが、姉の入院先で出会ったのは、事故により足が不自由になった少年サムだった。ゲームを通じて意気投合した二人だったが、セイディが隠していたとある事実によって疎遠になってしまう。

 約十年後に再会した二人。MIT(マサチューセッツ工科大学)で有名なゲームクリエイターのクラスを取っていたセイディは、作ったゲームをサムに渡す。そのゲームに魅せられ、共にゲーム作りを、とセイディを誘うサム。ルームメイトのマークスをマネージャに、二人は世界を揺るがすゲームを作るために走り始める。

 ゲーム業界ではまだ珍しい女性のセイディ、ユダヤ人の血を引き、韓国系の祖父母に育てられた足の不自由なサム。マークスの父は日本人で、母は韓国系アメリカ人だった。最初に三人が作りあげたゲーム〈イチゴ〉の主人公は、性別も年齢も国籍も不明の子供。津波にさらわれ、何とか家に戻ろうともがくその子は、居場所を探す三人そのものだったのかもしれない。けれど、〈イチゴ〉が大手ゲーム会社に買い上げられたとき、「女の子が主人公のゲームは売れない」という理由で男の子にされてしまう。

 売れるゲーム、売れないゲーム。マーケティングとクリエイティビティ。ゲームと愛で繋(つな)がった三人は、ゲームと愛でまた引き裂かれる。そして起こったあまりにも衝撃的な事件……

 「誰かと一緒にゲームをするリスクは決して小さくない。自分を解放し、さらけ出し、傷つく覚悟が必要だ」

 愛と友情のゲームはどこに向かうのか。池田真紀子訳。(早川書房、2420円)

読売新聞
2024年1月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク