『ブッダのお弟子さん にっぽん哀楽遊行』
- 著者
- 笹倉 明(プラ・アキラ・アマロー) [著]
- 出版社
- 佼成出版社
- ジャンル
- 文学/日本文学、評論、随筆、その他
- ISBN
- 9784333029112
- 発売日
- 2023/11/29
- 価格
- 1,980円(税込)
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仕事も家庭も行き詰まって困窮し、タイで出家した「直木賞作家」の悟り
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
「笹倉明」という名を聞いてミステリー作家だと思いだす人はよほどの小説好きだろう。
1988年、賞金1200万円の文学賞、「サントリーミステリー大賞」を『漂流裁判』で受賞し、89年には『遠い国からの殺人者』で第101回直木賞の栄冠に輝いた押しも押されもせぬ人気を誇った作家だ。
だがいつの間にか「タイに行って僧侶になった」と風の噂で聞いた。一体何があったのだろう、という疑念は本書を読んで解消した。
要は日本で仕事に行き詰まり、家族間の争いに疲れ、経済的に困窮して、暮らしやすいと言われるタイに逃れていたのだ。
その後チェンマイの古寺にて67歳で出家。本書はその1年余り後の2017年春と18年秋の2回、副住職で息子ほども年若いアーチャーン(教授)と二人で日本を旅した記録だ。ちなみに著者は年長者というだけで「老僧(トゥルン)」と呼ばれるが、実際はまだ駆け出しの僧侶である。
著者が所属する仏教はテーラワーダ(上座部)仏教。古代インドで釈尊(ブッダ)が説いた原始仏教である。日本の仏教とは違い、著者の説明で知ることは多い。
タイに旅行に行くと頻繁に見かける黄色の仏衣の姿で来日し、国内を訪ね歩く姿はかなり目立つだろうし、さぞ寒かっただろう。
自国であり他国でもある日本は二人に寛容だった。街は安全で、各地の寺は同じ仏弟子として最優先に彼らを歓迎してくれた。
著者はともかく同行のアーチャーンは日本の仏教との違いに戸惑いつつ、時間とともに上手く受け流していくのは若さのせいか、僧としては最速の出世を遂げた優秀さからか。
とはいえ奈良の大仏前でタイの僧侶が、教えのままに五体投地する姿はなかなか見られるものでない。
信仰とはどのようなものか。何かを信じ抜く姿とおおらかさには、少し縋りたいという誘惑にかられる。